第８話　大切な人達

コンピューター制御されていたスクリーマーＡＣ達。ライオネックはゼセーナンより特命を受け、スクリーマー唯一の人間隊員としてそれを統括していた。彼らは連合企業軍とともに壮絶な最後を遂げたわけだが、まだ最後の敵「アルフレート・ゼセーナン」と「エンドレス」が残っていたのであった。
エレベーター、通路、またエレベーター、また通路と入り組んだ地下基地を進むザックス達、それはまるで地球の中心にまでつながっているかのようだった。

「・・・・・・長いな・・・」

「そうですね、もう侵入してから１５分です。侵入してからすぐに強力なジャミングで外部との通信も絶たれてしまいましたし」
彼らは外界で何があったか、ハイデッカー達がどうなったかはまったくわからなかった。いや、今の彼らにはわからなかったほうがよかったのかもしれない。

「途中一回すさまじい振動があっただけだ、上はどうなっているのだろうか・・・」

「ハイデッカーさん達ならきっとうまくやっていますよっ！」
ロイドはこの時どうしても「きっと勝っていますよ！」とは言えなかった。それも仕方なかったのかもしれない。
道中、数機のシュトルヒやミミー改と遭遇したものの、なんなく撃破。彼らは着実に前へ進んでいた。しばらくして彼らはいままででは考えられないとてつもなく広い部屋にでた。

「こっ、ここは・・・なんて広さだ。天井が見えなければ床も見えない右も左も真っ暗だ・・・・・・」
そう、そこは超特大部屋だった。ところどころにいくつも小さな足場が浮かんでいる。

「あっ、あれを見てください隊長」

「ん、あれは・・・・・・」

ザックス達の足場から左の方に空中に浮かんでいる一つの足場に『左』と書いてある扉が、右の方には同様に『右』と書いてある扉があった。

「隊長、開きます！」
小さな足場上の左の扉と右の扉は同時に開き始めた。そしてザックス達は、その扉は向こう側が見えるわけでもなく、何か異次元状のものを扉の中に二機のＡＣを見た。


「ワガナハ『サコン』」

「ワガナハ『ウコン』」

「ココヘキタトイウコトハスクリーマーヲウチタオシタカ」
右近、左近と名乗る二人は次第に声を合わせてゆく。

「なっ、なんだ・・・スクリーマー以外にこんな奴らがいるなんて聞いてないぞっ！？」

「オオイナルヤミ、ソレハ、死」

「テイコウ、ソレハ、死」
そして二人は声を合わせて言う。

「ヨッテ！死、アルノミ！」
二機の左右対象なＡＣはブースト全開で小さな足場伝いに一気に間合いを詰めてきた。

「来るぞっ！足場に気をつけろ！」
ザックスの掛け声とともにロイド、シーマット、桃季はそれぞれ空中に散った。いや、ここは全て空中のようなものだが。

「桃季、援護は頼むぞ！シーマットは中距離、ロイドと俺は接近戦だ！」
ザックス達に行動の余裕があったのは、まだ左近と右近が、少なくともスクリーマーよりかは能力の劣るものだとザックスが感じたからだ。しかし、スクリーマーよりは劣っているとはいえ強敵に違いなかった。いや、左近と右近はスクリーマーとは違う強さを持っていた。

「隊長！レーダーに反応無し！ステルスです！」
シーマットがそう叫んだ時、すでに左近はザックスのすぐ後ろまでせまっていた。

「隊長！後ろだ！」
とっさにシーマットが叫んだことにより、ザックスはブレードをかすっただけで直撃は免れた。

「っぐはぁ！・・・・・・っちぃ！今度はこっちの番だ！」
すかさずザックスはブースト噴射で後ろに振り返ると、銃口を左近がいるはずの方向に向けた。しかしそこに左近の姿は無かった。

「何！？・・・・・・あがぁ！！」
何も無い空間からライフルの銃弾を受けるザックス、左近の姿はどこにも見えない。」

「隊長！敵の姿がレーダーでもカメラでも捕らえられません！恐らく新型の光学迷彩かと思われます！」

「何！？ということは見えないということか！？」
左近と右近の本当の恐ろしさ、それはレーダーにもうつらないカメラでも捕らえられないという新型のステルス機能であった。これは光をボディ直前でねじまげることによってカメラに映し出されないというもので、まさに完全に闇と一体化するのであった。

「ワレワレハヤミソノモノナノダ」

「ダレモワレワレヲトラエルコトハデキナイ」

「オオイナルヤミニツツミコマレルガイイ！」
高速移動を繰り返す右近と左近。

「くそっ！どうすればいいんだ！」
見えない敵の攻撃にザックス達は完全に惑わさせられていた。その間にもライフルだけとは言え、次々にザックス隊ＡＣの装甲を蝕んで行く。

「ロイド、シーマット、桃季、心の眼だ」

「心の眼！？」

「その昔、名のある格闘家達は眼をつぶっても敵を捉えることができたと言う。それを使うんだ、心で敵を捉えろ！」
突如ザックス達四機は小さな足場の上で動きを止めた。

「ナニヲカンガエテイルノカハシラヌガ」

「ワレワレヲトラエルコトナドデキナイトイッタハズダ」
二機は高速移動で一旦空中にでると、右近の左腕と左近の右腕を接触させた。

「心の眼、心の眼、心の眼・・・・・・・・・見えた！」
ザックスがそう叫ぶか否か、左近と右近は必殺の一撃を放った。

「ヒッサツ、『双殺蛇剣』！！！」
右近の左腕の白いブレードと、左近の右腕の黒いブレードがまるで蛇が木に巻きつくかのごとく
ねじれて一つのブレードとなった。そして一つとなった右近と左近はザックスのジャッジナイト
に向かって突きかかった。

「隊長ぉぉぉ！！！」

叫ぶロイド。


「・・・・・・・・・ここだぁぁぁぁぁ！」
ザックスの心に映し出されたのはザックスの右手に絡み付こうとする二匹の蛇だった。ザックスはその二匹の蛇の頭が無防備なことに気付いた。

「ナニッ！」
緊急旋回したジャッジナイトは双殺蛇剣を右手に受けた。しかし次の瞬間、ザックスは左腕のブレードを横に振り払っていた。


二つのＡＣ頭部パーツが闇の中へ消えて行った。

「ナンテコトダ！アタマヲヤラレタノカ！？」

「今だ！ロイド！シーマット！桃季！」
桃季のマルチミサイルが左近の軽量コアの装甲を貫き、シーマットとロイドの銃撃で右近の機体に衝撃が走る。マルチミサイルを受けた左近と、ロイドとシーマットの銃撃を受けた右近は空中に投げ出された。

「マズイ！オチルゾ！」
なんとかブーストで足場に戻ろうとする右近と左近。

「おっと、そうはさせるかっ！」
ザックスとロイドがブーストで上がろうとする二機の頭の上を踏んづけた。パニック状態の右近と左近は余計にパニックに陥る。

「オイ！ドケッ！」

「どけと言われてどくやつがいるかっての」
次第に右近と左近のブースト力が落ちていく。

「ウォォォォォォ！ソンナバカナ！！！！」
ブーストから光が途絶えた。

「ワレワレガマケタ・・・ソンナ・・・」

「これが現実だぜ、あばよ」

右近と左近は大広間の闇へ吸い込まれるかのように落下して行った。どこまでこの縦穴が続いているのかはわからないが、右近と左近に待っているのは間違い無く「死」だった。


「くそっ、右腕が完全にいかれちまった。さすが必殺技だぜ」

「隊長、どうします？引き返しますか？」

「ばかやろ！ここで引き返せられるか。ブレードと肩武器でなんとかなる。いくぞ！」
ザックスが活を入れる。

「しかしどうやって進んだらいいんだ・・・とりあえずあいつらの出てきた入り口が二つあるが・・・部隊を二つに分けるしかないか」

「そうですね、じゃ私とシーマット、ロイドとザックス隊長でいいんじゃない？」

「そうだな、それで行こう。俺とロイドは右から、お前らは左から行ってくれ」

「了解！」
シーマットと桃季は左近の扉から、ロイドとザックスは右近の扉から前へ進むこととなった。

「シーマット、桃季、死ぬなよ・・・・・・」

それぞれが扉の中へと消えて行った。しかし、次に彼らが、厳密に言うと彼らの魂が再び出会うのは数百年後となる。


「なぁ、ロイド」

真っ暗闇の道を進む中、ザックスが話しかけた。

「今までよく俺の下でがんばってくれたな」

「何言ってるんですか、隊長、まるでもうすぐ部下じゃなくなっちゃうみたいじゃないですか」

「あぁ、その通りだ。明日付で俺は解雇になる。レドルラック中・・・特将から朝、通達があった」

「なんですって！？そんな、隊長！・・・いてっ」
あまりの驚きのためロイドはコクピット椅子から立ちあがって頭をぶつけてしまった。

「それでだ、俺達四人では一回も飲みに行ったこと無かったろ？この戦闘が無事に終えることができたら、バー「ランカー」で飲み明かそうや」

「隊長・・・・・・もちろんです！」

「そのためにも、ゼセーナンとレドルラックの二人の謎を解き明かさないとな」

「はい！隊長！」

しばらく二人が進んで行くと、今度は床も天井もちゃんと存在するそれなりに大きな広間にでた。そこには影のように黒色でペイントされている１機のＡＣがいた。

「あれは・・・『影の一隊』の一機だな・・・・・・」

「はい・・・・・・」

「ここから先へは一歩も通すわけにはいかない」
影はそう呟いた。

「へぇ、なんで通すわけにはいかないんだ？」

「この扉の先、それは地獄」

影の後ろには一つの扉があった。

「地獄か・・・それを見てみたいんだよ俺達は。それともお前が教えてくれるのか？」

「・・・・・・・・・・・・・・・お前達が知りたいことを述べよ」
微動だにせず扉の前にたたずむ影。

「ゼセーナン、そしてレドルラックの正体」
ザックスの額から一筋の汗が滴り落ちる。

「・・・・・・・・・・・・ゼセーナンとレドルラック、彼らは兄弟。お互いが殺し合う兄弟」

「兄弟！？どういうことだ！？」

「・・・・・・もしその答えを知りたいのなら、地獄を見たいのなら、命を一つ捧げることだ」
影はそう言うと話すのを止めた。

「命を一つ捧げるか、ということは奴を倒せば問題無しってことだな、ロイド」

ロイドはザックスがああ言うのではないか、と予想してしまった。

「っそ、そうですね、でも影の一隊はスクリーマーとも争うほどの実力を持っています。二人で勝てるかどうかはわかりませんよ」

「やるしかないだろ」

「了解！」
ロイドとザックスは猛スピードで影に斬りかかった。影はいままでの沈黙を破り、ブーストジャンプでそれをかわした。

「ロイド！」
ザックスもジャンプで影の後を追う。ロイドはほとんど弾を出してないマシンガンの銃口を天井に向け、勢いよく銃弾を発射する。銃弾は天井に当たって、その瓦礫が影の上に崩れ落ちる。

「これでどうだぁぁ！」
ザックスは強烈な空中斬りで影に斬りかかった。影は崩れ落ちてきた天井を右腕で振り払うと、左腕に装備されているビーム形状のシールドで空中斬りを受け止めた。

「何っ！？シールドだと！？」
逆にはじかれてしまうザックス。

「我、お前達を殺すことが目的ではない。この扉を守ること、それが私の使命」

「くそっ！ムーンライト並の出力のシールドなんて！あくまで攻撃はしないというのかっ！？」
影には武器類は一切装備されていなかった。装備されているのは高出力のレーザーシールドだけだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロイド、よく聞け。お前が先に進むんだ」

「隊長、どういうことです」

「こんなところで時間をくっている余裕はない。かといって奴を倒すのは不可能に近い。だが命を捧げればあいつは道を明けてくれるんだ。なら俺が命を捧げる」

「った、隊長！そ、そんな！だめです！」
さっき予感したことが的中した。とまどうロイド。

「・・・っは、言ってみただけだぜ、ロイド。冗談だよ、俺は自殺なんてしたかねぇよ」

「隊長！悪い冗談は止めてください！がんばってあいつを倒すんですよ！」
ロイドはミサイルのロックを影に合わせた。小型ミサイルを何発も発射する。しかしシールドはその全てを防いでしまう。

「だめかっ！どうやったらあいつにダメージを与えられるんだ！」
ロイドがひたすら戦っている中、ザックスは考えていた。考えて考えて、そして答えを出した。

「ロイド！さっき見た右近と左近の『双殺蛇剣』だ！腕を合わせることはできないが、二本のブレードで突けばシールドを破れるかもしれない！」

「わかりました！隊長、まだあきらめてなかったんですね！」
ザックスはブレードを最大出力まで上げると、影に飛びかかっていった。ロイドもそれに続く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・！！！！ロイド！すまない！！！！！！！！！！」
ザックスは考えに考えて、考え抜いて出した結論を行動に移した。

「！！！！！！！！！！！！！うらぁぁぁぁぁ！！！！！！！！！！！！！！！！」
ザックスは展開される影のレーザーシールドに、胸部から突っ込んで行った。ムーンライト並の出力のシールドはザックス機ジャッジナイトの胸部に食いこんで行く。

「！！！！！！！！」

ロイドの発した言葉は言語にならなかった。ロイドの時間は一瞬止まったようだった。

「・・・・・・・・・ロ、イド・・・すまない、すまないな、こいつには勝てないことがわかる・・・絶対に勝てない・・・ここで二人やられるわけにはいかねぇんだ！」

「ザックス隊長！！隊長！！そんな・・・そんなぁ！！！！！！！」
ザックスは最後の力でジャッジナイトを一歩進ませた。レーザーシールドの光はザックスの肉体まで届いた。

「すま・・・ない・・・、飲みには・・・・・・行けなかった・・・・・・」

「隊長！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
！！」
ロイドの涙は止まらなかった。彼はここ数日であまりに多くの仲間、そして友を失った。彼はこの時から涙が止まらなくなり、後々の人間に『涙の騎士』と呼ばれることとなる。


「・・・・・・我、命を確認した。この扉から先に進むがよい」
影は静かに言った。ロイドは泣きつづけている。

「う・・・ぁ・・・・・・そ・・・んな・・・隊長・・・・・・」
すると、彼の元へ一通の通信が入った。

「ロイド、これは時間差通信だ。これは２分前に録音されたものだ。もし今俺の死で涙を流しているのなら、そんな暇があったら先へ進め！ハイデッカー達の気持ちを無駄にするなよ、あいつらは俺達に希望を託したんだ。絶対に止まるんじゃない。進むんだ・・・・・・・・・・・・・・・シーマット、桃季にもよろしくな、最後に一言だけメッセージがある。これはロイド、シーマット、桃季に送る、『すまない』と」



それから５分後、彼は扉を潜り抜けていた。そして彼はさらに涙していた。彼の見たものは床に転げ落ちているシーマット機フリーズサンズのＨＤ−ＲＥＤＥＹＥと、桃季機倒福号のＨＤ−ＺＥＲＯと、首と胸部の無い二体のＡＣだった。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
　　　　　　　　！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
　ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
　　　　　　　　！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」

ムーンライトを完全に防ぐビームシールド・・・。
隊長の想いを背負い、ロイドが見た光景はあまりに悲惨。
次回、最終決戦！　ここで勝たなきゃ男じゃないゾ

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