「いやぁ〜絞られたな。でも普通なら停学処分だぜ」
ラムダとレオナードはレッド・ヘッド襲撃の件で担任の指令を無視し、勝手な行動
をとったとされて校長室に呼び出されたが、レオナードが学院トップの成績、将来有望な
士官候補生だったおかけで特に罰を受けることなく、説教程度でレオナードは解放された。
「あの時俺達が出ていなければパッタはやられてたかもしれないんだ。校長には
そこんとこをもっと考えて欲しいね」
「まぁ停学にはならなかったんだ。よかったろ」
レオナードが校長に頼み込んでなんとかラムダも停学処分にはならなかった。
「まぁな、でも次こんなことになったりしたらそれこそおしまいだぜ」
「大丈夫だ。次は卒業試験なんだからな」
卒業試験。それはどこのハイデッカー学院でも共通に行われる三学期末ＡＣ実技試験で、
実質この成績が連合企業正規パイロットになれるか、またどれだけ上位の部署につけるか、
などを決定するに等しい。この試験は試験当日二日前までミッション内容があかされない。
しかも大体の場合が小規模宇宙海賊・テロリスト基地掃討など非常に（学生にとっては）
難解なミッションがかせられる場合が多い。よってこの最終試験で命を落とすものも
多々居るが、さほど問題になっていることではない。生徒達は試験二日前にミッションと
情報を渡され、自分たちで作戦を組み、そして実行する。
まさに実戦なのである。もしもミッションを失敗したら、連合企業正規軍が後始末を
することとなっている。ちなみに２１番（ラムダ達の分校）校の去年の卒業試験は
宇宙テロリスト『ドア・オブ・ドア』本拠地の完全破壊だった。ハイデッカー学院
２１番校三回生全員参加（１２０名）、うち死者１０名、重傷者２６名で連合企業正規軍
に入隊したのは１０８名だった。
「卒業試験かぁ…まちどおしいぜ」
「まったくだ」
それからレオナードはともかくラムダも順調に成績を伸ばして行き、２１番校に
レオナードとラムダあり、とまで言われるほどになって行った。そして卒業試験も
間近というころ、ハイデッカー学院恒例の分校対抗ＡＣ技術評価大会なるものが
行われようとしていた。
「さぁ〜今年もやって来ました！恒例の分校対抗ＡＣ操縦技術評価大会！
評価会なんてのは名ばかりで、ほんとは太陽系中のハイデッカー学院の猛者達が
一箇所に集まって戦い合う対戦会であることはみんなも承知済みだよね〜！」
一瞬だけ寒気を感じるかもしれない明るいアナウンサーの放送が２１番校に響き渡る。
今回の対戦会の会場となったのは２１番校。分校対抗ＡＣ技術評価大会はその年
その年の全ハイデッカー学院分校中で、総合成績がトップの生徒がいる分校で
行われることとなっている。当然今年の総合成績１位はレオナードだった。
「まずはハイデッカー・ハーモン学長と２１番校のウォーロッカ・ブリハム校長から
の挨拶です」
各校代表者たちが集まっている大広間の天井から四つの球が現れた。モニターボー
ルと呼ばれるその球から発射される光線であっと言う間にでかでかと学長の顔が映る
超巨大スクリーンができあがる。
「各校代表の諸君、選ばれし君達の中からナンバーワンを決めるこの大会、宇宙中の
パイロット、そして一般市民が開始の合図を待ち望んでいるだろう。ここで優秀な成績を
収めたものには直接ＵＥからスカウトがくる可能性もある。それもふまえて存分に力を出し、
ぶつかり合って欲しい。では、ここにＡＣ操縦技術評価大会の開始を宣言する！」
大会参加者、応援席、そして全宇宙から歓声が湧き上がった。
とうとう一年（ＵＥ標準時）に一度の祭典の幕開けである！
その後、ウォーロッカ・ブリハム他関係者らの挨拶、レオナードの選手宣誓、
ルール説明と続き、開会式も終わりに近づいてきた。
「・・・・・・・とそういうわけでありまして、全宇宙への放送は我々ＵＴＶが預からせて
もらいます。なお、放送席には技術アドバイザーとしてオオツボさんをお呼び
しております。さて、各校の代表選手を見てみましょう。今回の大会に参加するのは
例年通り全７３校。なかでも優勝候補と言われているのが、今大会開催地である
２１番校代表長レオナード・レルラー君ですね、オオツボさん」
「そうですねー、彼は何百年に一度かに出現する天才と言われています。特に彼の
必殺技であるステップ３にかかって倒れなかったＡＣはいままでいませんからねー。
優勝が期待されます」
「他に優勝候補として期待されているのが前回優勝の７番校代表長ケーリッヒ・
シュタイナー君ですね。他には３６番校代表長フー・チョン君も期待されています」
ＵＴＶは連合企業が公式に認めている唯一のテレビ局である。しかしこれほどの
ビッグイベントを他局が放っておくはずもなく、すでに開会式には数百人の
高性能隠しカメラを持った各局の特派員が紛れ込んでいると思われた。
「おっと、７３番校はたった一人しかエントリーしていませんねぇ、どういうことでしょうか」
「え〜と７３番校・・・代表選手はＢＢ・ガゼル君ですか。７３番校は最近新設された
分校ですので恐らく３人も代表選手を立てられなかったにではないでしょうかね」
アナウンサーとアドバイサーの好き勝手な報道が続く中、開会式は何時の間にか
終わっており、早速第一試合が開始されようとしていた。大会はトーナメント方式で、
成績トップのレオナードだけがシードとして準決勝から参加する。
「Ａコート第一試合！７番校代表ケーリッヒ君 ＶＳ ６２番校代表ドップ君だ！
宇宙フィールド一本勝負！始っめぇぇ！」
またまた女性アナウンサーの寒気のする声がＡコートの試合開始を告げた。
バトルフィールドはバリアーボールで囲まれた直径２kmのバリア球内である。
中には小惑星や廃艦などさまざまな障害物が散りばめられている。
ワァァァァァァァァ！！！！！！！！！！！
全８コートにおいて激しい戦闘が開始された。試合は全武器実弾使用であり、
ＡＣを戦闘不能まで追い込むか、相手が降参するかしたら勝利となる。
「さぁ〜て、とうとう始まりました。まず第一回戦で注目すべきなのが、Ａコートの
ケーリッヒ君です。優勝候補だけあって応援団の入れ込みようも半端ではありません」
「オレが誰かわかってんのかぁ！」
ケーリッヒの愛機“モノ・ブラック”のブレードがドップのシールドを斬り刻んだ。
特注のレーザーブレードだけあってその出力、見栄えとも段違いである。さすが宇宙
でも一二を争う大金持ちの息子だけあった。金にものを言わせて、本来は正規教習用
ＡＣで出場しなければならないところを、特例で愛機出場したのだ。それ以外の生徒
のほとんどは正規教習用ＡＣ（入学時に貸与される）で出場しているが、細かいパーツや
武器の変更はルール内においては可能であり、各々お気に入りのパーツで出場している。
「うわぁぁぁぁ！！！！」
ドップはかろうじて本体へのダメージを免れたものの、ケーリッヒに追ってくる速度に
逃げる速度がおいつかず、案の定両腕を斬り落とされて白旗をあげた。
「圧勝です！ケーリッヒ・シュタイナー君、難なく一回戦を突破しました！」
このように、ケーリッヒを始めとして優勝候補の選手たちは順調に勝ち上がっていった。
ラムダもまた例外ではなかった。
「順調順調。問題ないね」
そしてあっという間に数日経ち、準決勝までコマが進んでしまった。
「準決勝ぉ！？もうこんなところまで来ちゃったのねぇ〜。では青・・・じゃなかった、
準決勝第一試合は・・・全戦一発ＫＯを決めてきた７番校代表長
ケーリッヒ・シュタイナー君！」
準々決勝からは一度に一試合しか行われない。つまり、今、この試合に全宇宙の目
が向けられていることになる。
「ＶＳ！２１番校代表ラムダベート・カイハイセン君！」
「ラムダ、決勝は俺とお前だ」
カタパルトにはレオナードとラムダの姿があった。
「もちろんだ。どれほどお前と戦うことを待ち望んできたことか」
ラムダもまた順調に勝ち上がってきた。その活躍はケーリッヒと比べても見劣りしない
ほどであった。
「両者射出！」
「よし、行け！」
足元で火花を飛び散らせながら、ＡＣカタパルトによってラムダは宇宙へと投げ出された。
「両者、射出完了！試合が開始されました！」
レポーターもここ数日怒鳴りっぱなしで、声がかれそうだったが、準決勝のこの熱気
に復活させられた。
「ラムダベートか。前資料でチェックはしてみたもののどうも実力がわからん」
ケーリッヒは近くの廃艦に身を隠し、再度ラムダのデータを検索していた。
「とりあえずあたってみるか。オレは全戦全勝のケーリッヒなんだからな」
モノ・ブラックは右手に実弾マシンガンを再度握り締め、廃艦から出ようとした。
「そこかっ！」
突然廃艦の薄板を貫通してラインガンがモノ・ブラックに降り注いだ。
「何！？ばかな！レーダー外だぞ！？」
すぐさまケーリッヒは腕をクロスさせ、腕付属の小型シールドで防御体制に入る。
弾はシールドで跳ね返された。
「シールドなんて！！！！！！」
ラムダはラインガンを手放すと、肩装着のレーザーキャノン砲発射体制に入った。
「前方にエネルギー反応」
モノ・ブラックのメインコンピューターが危険を知らせる。
「くそっ！」
ケーリッヒは回頭しては間に合わないと思い、ガードしながらバックダッシュで緊急
離脱する。
「発射！」
レーザーキャノン砲から超巨大光球が発射された。それは光の数百分の一ほどの
スピードで廃艦に直撃した。
「前方より衝撃・・・」
メインコンピューターが言い終わるまでにモノ・ブラックを廃艦の爆発衝撃波が襲った。
一瞬全機能がマヒを起こすほどだ。
ワァァァァァァァァーーーーーーーー！！！！！！ドンドン！パフパフ！
そのラムダ優勢の展開に観客はいっせいに歓声を上げた。
「ご覧ください！試合はラムダベート君の圧倒的優勢で展開しております！
ケーリッヒ君は防戦一方といったところでしょうか！？」
「なめるな！！！！！オレはケーリッヒ・シュタイナーだ！！！」
ケーリッヒはブースト全開で前方に高速移動し、マシンガンを乱射しながら、跡形
も無くなった廃艦の残骸の中を突き進む。残骸と煙で視界はゼロに等しい。
「見えたぞ！」
レーダーでラムダの位置をキャッチしたケーリッヒは右手のレーザーブレードの出力
を上げた。
「勝負！」
ラムダはレーザーブレードをまっすぐにつき立て、超高速でモノ・ブラックに突撃
していった。ケーリッヒはマシンガンの銃口をラムダに向け、撃ちながらも接近戦の
態勢に入った。
「来るか！」
ブレードを構えたケーリッヒだったが、ラムダにとってはそんなことは関係なかった。
ＡＣを一直線にし、超高速でモノ・ブラックに突進、モノ・ブラックに一太刀浴びせて
そのまま駆け去っていった。
「なんだったんだ・・・矢のようだったが」
ケーリッヒはあっという間の出来事で、モノ・ブラックの左手の異常に気が付いて
いなかった。
「サブマシンガン大破」
コンピューターはそれを知らせたとき、初めて自分のマシンガンがブレードで突き
刺されて使い物にならなくなっていることに気づいた。
「まさか・・・あの一瞬の接点で正確にこれを突き刺したというのか！」
ケーリッヒはマシンガンを放り投げると、腕をクロスしてブーストを全開にした。
「オレは、オレは、オレはぁぁ！！！！」
残骸宙域を全速力で駆け抜けたケーリッヒの前にあったのは自動発射設定のされて
いたラムダのラインガンだった。
「オレをなめるなと言ったはずだ！全方位シールド！」
持ち主のいないラインガンが自動発射される直前に、モノ・ブラックを緑のヴェール
が覆った。 これが数年前に開発された全方位レーザーシールド、ＡＣを球で包むかの
ように展開されるものである。俗にバリアと呼ばれるパーツであった。バリアはこと
ごとくラインガンの銃撃を防いだ。
「オールシールドか・・・そんなものを付けてるんだ。まぁ大丈夫だろ」
ラムダははるか上方でその光景を見ていた。その右手はレーザーキャノンの照準を
モノ・ブラックに合わせていた。
「上方にエネルギー反応」
「何！？」
ケーリッヒの反応は間に合わず、光球は発射された。そして見事に、完璧なまでに
モノ・ブラックを直撃した。
「バリア全開に！ぐわぁぁぁ！！！」
バリアはなんとか光球を防ぎきったが、ダメージ許容量を大幅に越え、背中の発生
装置が爆発してバリアは消滅した。かろうじて本体へのダメージを最小に留めること
ができた。
「レーザーシールド消失 本体へのダメージ２６８０」
「う・・・頭がクラクラするぜ・・・なんて野郎だ」
ケーリッヒは態勢を立て直すと、自動発射設定されていたラムダのラインガンに手を
やった。
「こいつを使わせてもらうか」
ラインガンを手にとって試し撃ちをしたその時！ラインガンはモノ・ブラックの右手
で大爆発を起こした。
「ぐはぁっ！」
ラインガンの銃口には小型爆弾が詰められていたのだ。モノ・ブラックの右手から
肩にかけて跡形もなく吹っ飛んでしまった。
「ザザ・・・左・・ザ・・大破 ザザ・・戦闘・・・ザザザ・・続行・・・能」
メインコンピューター、ＦＣＳ共に活動を停止し、モノ・ブラックは宇宙空間で鉄の
人形となった。
「・・・完敗だ」
「勝者 ラムダベート・カイハイセン君！」
ワァァァァァァァァーーーーーーーー！！！！！！ドンドン！パフパフ！
「圧勝です！２１番校代表ラムダベート・カイハイセン君！圧勝です！」
興奮したレポーターがおもわず身を乗りだしてラムダの勝利を報道する。
「武器に爆弾を仕込み、相手にそれをとらせて爆発させるという絵に描いたような
勝ち方でした。ラムダ君のＡＣには傷ひとつありません！」
ラインガンを一つ失ったものの、ラムダのＡＣにはまったくダメージが無かった。ま
さに完勝であった。
「やったぜ！レオナード！」
ラムダは一通り勝利パフォーマンスを終えると、レオナードの待つＡＣ用離発着港に
帰ってきた。
「よくやったな。だが武器を破壊するとは感心できない勝ち方だが」
「いいのさ、これがやりたくて一番安いラインガンを選んだんだからね」
レオナードはラムダの勝利を褒め称える反面、かすかに疑問を覚えていた。
『これほどまでとは・・・』
その後シードだったレオナードも準決勝をらくらく勝利し、とうとう決勝戦まで
コマは進んだ。