「Ｂ部隊配置完了しました」
「Ｃ部隊発進準備完了、総司令官の支持を仰ぎます」
「Ｄ部隊、いつでも包囲に入れます」
「ＯＫ。レオナードさん、こちらウェットです。各部隊の配置が完了したようです」
各部隊長から情報は本部のウェット情報部長へ集められ、そこからレオナードに繋がる
ようになっている。
「了解した。これよりアース・ジム領内への進撃を開始する」
Ａ部隊隊長兼総司令のレオナードは落ち着いていた。レオナードが落ち着いてるからこそ、
ウェットは安心して命令を下すことができるのだ。
「・・了解。各部隊長さん、作戦開始です！」
ウェットからの作戦開始の指示はすぐに各部隊長へと伝わった！
「大気圏用ブースターは繊細なことを忘れたらあかんで！Ｃ部隊、全機発進！」
けたたましいエンジン音とともにＢＡＣが大空へと飛び立っていく。
戦術爆撃専用ＡＣ"ＢＡＣ"が敵地周辺に陣取っているレオナード達の上空を飛び過ぎて行き、
一気に敵本拠地に集中爆撃を開始した。地上にある敵の格好の隠れ場所となる廃ビル郡が
ことごとくガレキやの山となって崩れ去っていく。この爆撃は数分続いた。
「よし！Ａ部隊、Ｂ部隊共に進撃開始！Ｄ部隊も中央大通りに展開してください！」
この指示でＡＣ部隊が一斉に動き出した。
「そろそろ敵さんも気付くはずだ！」
本拠地襲撃の突撃Ｂ部隊。
「よっしゃあ、第一段階は成功や。１時帰還すんで！」
すでに空爆を完了したＣ部隊。
「ねずみ一匹外部にだしませんよ」
敵の外部連絡を絶つためのＤ部隊。
「我々にもいつ任務が下されるか分からない！整備怠らないこと！」
補給専門はＧ、Ｈ部隊だ。
「どわぁ！！！！！！！」
数分後、Ｂ部隊にいきなり射撃の雨が降り注いだ。これは開戦の狼煙を意味していた。
「敵固定砲台確認」
情報はすぐさまウェットのもとへと送られ、全ＡＣのメインコンピューターに
アップロードされる。それなりの大きさの固定砲台は作戦前にどこの存在するかが
判明するのだが、小型の固定砲台は発見できないことが多く、ほとんどが現場で発見、
通知される。
「しょせん小型砲台ですから、駆逐しつつ進撃してください」
「了解」
同時に本拠地を襲撃しているＡ部隊は早速アース・ジムＡＣ部隊と遭遇していた。
「４、５小隊をもってこれに応戦。他は前進する！」
レオナルドから的確な指令が下され、すぐさま４、５小隊が壁となって本隊に前進する
ことを可能にする。
「青二才どもめ！大人をなめんな・・・ァァー！」
「こちらＢ部隊隊長ユングラー。Ｄポイント攻略に成功」
敵の最後の一機が破壊されると、ユングラーは落ち着いて様子でウェットに報告した。
特に激戦があったわけでもない、こんなに簡単に制圧できたことを不思議にさえ思う
ユングラーだった。
「了解、Ａ部隊が予定ポイントに到着するまでそこで待機していてください・・・
こちらウェット、レオナード総司令、現在の状況を報告してください・・・
司令？どうしたんだろう、切れてる？」
そのころ、Ａ部隊はまさに戦火の真っ只中にいたのだ。それも並大抵の火ではない、
レオナードをも恐怖させる炎がそこにはあった。
｢密集するな、散開するんだ！｣
そう叫んでいるのは副隊長のラムダだった。正体不明の巨大ＭＴが現れてから、
それまで攻勢だったＡＣ部隊も防戦一方となってしまっていた。
「レオナード、どういうことだ！こんなのがいるなんて聞いてないぜ！？」
やはりレオナードにもラムダにもプロ意識はすでに芽生えていたようで、
戦闘に私情を挟んではいけないことをよく理解していた二人は、
すでに普通に通信を交わしていた。
「とにかく敵胸部への攻撃を集中、チャンスがあれば俺自らが切り込む！」
その炎はビルの中に隠されていた。アース・ジムのＡＣ部隊が撤退したかと思うと、
いきなり近くにあったビルが音を立てて崩れ始めたのだ。ビルの崩れる音と煙の中から、
一本の極太の光が差し込んできたのが５分前のことだった。
「通信はまだ回復しないのか！？」
「だめです！おそらくあの巨大ＭＴから妨害電波がでているものと！」
そんなことをしているうちに、再び、巨大ＭＴの胸部の穴が光始めた。
「まずい！さっきの光だぁ！」
「総員退避！！！！！」
「間に合わない！！！」
まばゆいばかりの光があたりを包み込む。近くにいた生徒の一人がとっさにシールドで
身を守ろうとした。
「ふっハハハハ！！ごみが、消えろ！ってぇ！」
巨大ＭＴの胸から極太のレーザーが発射された。
「！！！！！！！！」
その時ちょうど正面に居合わせた不幸な生徒９人のＡＣがレーザーに飲み込まれていく。
シールドはなんの意味のなさず、一瞬にして蒸発にまで至らしめられた９人は、
最後の言葉を発する機会さえあたえられずに星となってしまった。
「ハンス、ハンス！！！」
友達が中にいたのだろう、悲痛の元にＡＣごと地面に倒れこむものもいた。
しかしその生徒は格好の餌食となり、すぐにコクピットに集中砲撃をあびて絶命してしまう。
「あぁ・・・なんてことだ・・・ラムダ、何人残っている？」
レオナードが悲痛に顔をしかめさせ、ラムダに聞いた。
「・・・９人、いや、８人だな」
「二分で１７人もの仲間を失うとはっ、こんなはずじゃなかったのにっ！」
二回のレーザー砲撃ですでにＡ部隊は全滅にまで追い込まれていた。
すでに周囲は敵ＡＣに固められ、撤退も不可能、妨害電波のせいで連絡もとれない、と
最悪の状況にまで陥ってしまったのだ。
しばらく沈黙が続いた後、拡声器に乗って野太い声があたりに木霊し始めた。
「あ〜あ〜聞こえるか！？、これは俺達アース・ジムを標的とした罰である！」
「こいつは計算外だったろぉ？冥土の土産に教えといてやる。これはあるやんごとなき身分の
人からの贈り物でね。名は"ジャイアント"って言うそうだが、なんといってもすごいのは
この胸部レーザー砲だろう。戦艦の主砲クラスのこのレーザーはどんなものでも消しちまう
ほどの威力があるんだぜ！」
五分たらずでＡＣ部隊を全滅近くにまで至らした恐怖の兵器は、数十の発射装置から
だされるレーザーを途中で一本に束ねて、極太レーザーにする集束タイプのレーザーだった。
こんなものがついてる兵器をたがが小規模テロリストが購入するのは不可能なはずだ。
ラムダはそう思っていたが、いまはそんなことを考えている状況ではなかった。
「攻撃力抜群、装甲超厚、質実剛健なこいつがあれば、我々アース・ジムは無敵だ。
俺達を最終試験の課題にしたには連合企業側のミスだったな。あいにくだが、
俺はあんたらを生かす気は無いぜ。ガキだろうが、ＡＣに乗りゃあ立派な"大人"だ。
情けはかけねぇ。んじゃな」
「くそっ！これまでか！」
三度集束される光を見て生徒達が死を覚悟したとき、急にあたりに爆発音が響き渡った。
「な、なんだ！」
敵味方両方ともがその目を疑った。青かった空からたくさん黒いものが降ってきたのだ。
「うぉぉぉ！？」
それの直撃を受けたジャイアントがバランスを崩して地響きと共に地面に横倒れとなった。
その時、生徒達の近距離用無線に知ってる人の声が入った。
「今だ！」
「！？」
そこ声だけでラムダはすべてを理解し、次の瞬間には行動に移っていた！
「！！！！！！！」
ブースト全開で一直線にジャイアントに突進していくラムダ、
まだアース・ジム側は混乱に陥っていて、それに気付いていなかった。
「っは！」
ジャイアントの足を全速力で駆け上って、コクピット部分に到達するまで三秒と
かからなかった。ジャイアントのパイロットがラムダの突進に気付いたのはラムダが
足を登り始めて、途中まできたくらいのところだったので、反応さえできなかったのだ。
「うぬれ！こしゃくなまねぇ！」
ジャイアントは右腕でラムダを振り払おうとするもの、自分の胸部は見事に腕の死角に
なっていたようで、届きさえしなかった。
「遅いぜ！」
ラムダは右手を高々とあげると、ブレードを発生させて、全力でコクピットに向けて
突き刺した。ブレードはこれでもかというくらいにズブズブと装甲を貫いていく。
「な、な、わぁぁぁぁぁ！！！！！！」
腕が完全に装甲の中に埋まるほど突き立てて、やっとコクピットまで到達したブレードの
先は見事に操縦者を焼ききっていた。
一瞬あたりは水を打ったように静まり返った。その間は、敵の叫び声と味方の歓喜の声に
はや変わりすることになった。
「大成功だ！」
空から攻撃をしたのはＢＡＣのＣ部隊だったのだ。ウェットはＡ部隊との連絡が
途切れていることを不審に思い、すぐにＣ部隊を最後に信号のあった場所へ
向かわせたのだった。
「何をしている！敵は総崩れだ！」
レオナードの掛け声と共に、いっせいに残った８機のＡＣが踊りかかった。
ジャイアントを倒されたＡＣ部隊など、ＢＡＣの加わったレオナード達の敵ではなく、
あっという間に制圧されてしまった。
「ワーケン、ありがとう！本当に助かったよ！」
とりあえず制圧を完了して、残った８人の生徒達がワーケンの元へと駆け寄って、
無事を祝福した。しかし祝福もつかの間で、散っていった同級生達の遺体の、
形が残っている遺体だけの埋葬に取り掛かったころには、みんな言葉を無くしていた。
「こちらＡ部隊通信担当 予定ポイント地点で敵巨大兵器"ジャイアント"と交戦、
多大な犠牲を払いながらもこれを撃破、予定ポイントを制圧することに成功しました」
「・・・それで犠牲・・・は？」
「・・・残念ながら、１７名の戦死を確認しました」
その後、Ａ部隊はＢ部隊と合併し、その戦力は激減していたものの、
Ａ部隊の犠牲のこともあってか他に犠牲者を出すことなく犠牲者：２３名で
ミッションはクリアを迎えた。これは全宇宙の学園卒業試験戦死者数のワースト記録を
更新するものとなった。
その後生徒達は衛星軌道上のコロニーで一泊し、学園への帰路へつくことになったのだが、
友達を無くしたものも少なくなく、勝利に酔いしれるものは一人もいなかった。
予想外の超巨大兵器"ジャイアント"の出現を予想していなかった連合企業教育局の
上層部で大幅な人事異動がされ、この"卒業試験実戦制度"も始めて見直されることとなる。
そもそもこんなむちゃくちゃな制度を作られたのは最近のことで、
あいつぐ宇宙海賊の旗揚げ、そしてその活発な活動を重く見た連合企業首脳部でも、
とびぬけて頭の切れるとある人物がその絶大な権力を盾に強制施行したものであった。
その後当然のように、この制度に反対する民間レベルの組織が多々あったが、
どれも謎の消失を遂げている。しかし今回の事件はさすがに首脳部でも見直されることが
きまったようなのであった。
この戦いは"アース・ジムの悲劇"として、卒業試験実戦制度の廃止を願うものたちの
格好の武器となっていくのだが、それにしては犠牲者が多すぎたのではなかっただろうか。
こんなばかげた制度が認められるほど、宇宙は荒廃しきっているのであろうか？