ルノリアの一件から一ヶ月の月日が流れた。カルナック・ブラザーズは武装解除し、
カルナック星には平和が戻った。リューネはルノリア出現について本部には何も通達
しなかったが、ほどなくして調査団が本部から派遣されてきた。リューネは彼らと面会し、
事の真相を聞いてはみたが、調査団の団長、メラードとか言ったか、本人はあまり話さず、
会話のほとんどは秘書によって受け流された。そんな中ラムダは、レオナードやパッタのいる
ＵＥ本部が存在するハイランド・コロニーに足を運んでいた。
「まもなく当機はハイランド・コロニー第８ベイに着港致します」
ハイランド・コロニー。ＵＥ本部が存在する全宇宙の中心地である。
Ｕ.Ｅ.１０３年に着工され、１０６に完成したことからその歴史は古い。現在の単位で言えば
１０００ｋｍ×２００ｋｍの円筒型巨大コロニーで、人口は２０００万人程度、
当然一般居住区も存在する。周囲には無数のミサイル、レーザー衛星が配備されてて、
防御は完璧である。またレオナードの所属する"セインツ"も駐留しており、パッタが入局した
教育局の本部もここにある。
「着いたか・・・」
ラムダはカルナック星から９８連隊のＡＣ輸送機でＡＣごと大型宇宙港のあるアズガルド星
に飛び、そこからシャトルでハイランド・コロニーに向かった。ゲルニカはアズガルドで
一度整備されることになった。精密な部分はカルナック星の設備では到底カバーしきれなかったのだ。
「なんにしてもとりあえずパッタとコンタクトをとるか。メールの返信が来なかったからな。
迎えにきてもらおうと思ってたんだけどなぁ」
ラムダはハイランド・コロニーに来るのは二度目（一度は学生時代に旅行で）だったので、
少しばかり地理には明るかった。
「いらはい、いらはい！太陽栽培の新鮮野菜だよ！」
「今日はＵＥ通信の新刊日だよ！バックナンバーも一週間分あるよ！」
ラムダはタクシー・プレート（一人用の密閉部屋型無人小型プレートで、空中を時速５００ｋｍ
で走ることができる。また四人乗りの大型の物も存在する）を拾って一般居住区を抜け、
一路連合企業教育局（ノースハイランド地区）を目指した。ラムダは道中景色を眺めていたが、
緑有り、ビル有りとその景色は他のコロニーとは変わらないように見えた。
自動砲塔等も兵装ビルとして隠されているようだった。"本部"としての固いイメージは
感じ取れなかった。ラムダがプレートで移動すること２０分、のどかな緑の風景とは一転して
砲台が剥き出しの警備の厳重な景色へと変わった。連合企業本部地区である。
連合企業の準主要施設は全てここに集められている。教育局、通信局、自治局、式典局、
ｅｔｃ。なお警備局や軍備局などの第一級重要組織はその所在を明らかにしていない。
「教育局前、教育局前、料金ハ１２０Ｃ、アリガトウゴザイマシタ」
ラムダはカードを通してエア・ステーションに降り立った。
ここへはエア・ライン以外での入地は事実上できない。周辺は警備ＡＣでがっちり
固められている。そしてそれぞれのステーションには完全武装の警備員が配置されており、
三重のセキュリティーシステムをクリアーして初めて施設内に入ることができる。
ラムダは自動ドアを通り、さっそく受付に向かった。
「すみません。パッタ・ラメロット中尉を呼び出してもらえますか？」
ラムダは受け付けの女性にパッタの所在を探してもらったが、驚くべき答えが返ってきた。
「申し訳ありませんがパッタ中尉は休暇中でここにはおりませんが」
「休暇中？休暇先はわかりますか？」
「少々お待ちください・・・休暇先は非通知となっております」
その後ラムダはコード・サーチ（個人探査システム）をしてもらおうと思ったが、
これは両人の合意証明がいるため、そんなものをとっていなかったラムダは諦めて、
教育局附属図書館に向かった。
「まったくパッタの奴・・・どういうことだ？ でも俺も休暇中か」
ラムダはとりあえずパッタのことは後回しにし、ここに来た目的を果たすことにした。
ラムダには幾つか調べておかなければいけないことがあった。一つはカルナック星にあった
謎の組織のこと、そしてルノリアのこと、ゲルニカについての公式資料にも目を通して
おきたかった。
ほどなくして図書館に着いた。図書館には多くのデジタルデータとアナログデータが
保管されている。デジタルデータならば宇宙中のどの場所からもサーチが可能なのだが、
アナログデータはそうはいかない。ラムダはデジタルデータでは見つけられなかった
"ルノリア"という単語をアナログ文書一覧データに見かけ、ついでに足を運ぶことにしたのだ。
「え〜と"せ"・・・"せ"・・・と・・・あった」
１km四方近くはあろう図書館、ここでも移動手段には小型プレートが使用されている。
ラムダは"世界神族辞典８巻 ハデス〜ルノリア"を発見した。
「っげ、大破壊以前の超貴重指定の文書じゃないか・・・何々・・・・ルノリア・・・
２１世紀に入ってからその存在が文書中に発見された。月の男神である。
月の女神"ルナ"の親族とされた。月光神と呼ばれるルノリアは一週間のうち月曜日を司り、
同様の神にそれぞれ順番に火炎神サラマンド、水流神シュトルム、樹木神ボルドー、
黄金神ジオール、大地神ジアドが存在する。これらを統合して六廻神と呼ぶ。」
ラムダは日曜日だけが存在しないこと不思議に思って六廻神についても調べてみた。
「・・・・・・六廻神：日曜を除く一週間の全てを司る神である。それぞれ月光神ルノリア、
火炎神サラマンド、水流神シュトルム、樹木神ボルドー、黄金神ジオール、大地神ジアドが
ある。なお日曜日だけ存在しない理由はわかっていない・・・・・・なるほど、単純に考えると
この宇宙には化け物が最低６体いることになるな」
ラムダは本を閉じた。そして教育局を出ると、町を散歩することにした。
「おかぁ〜さ〜ん、見てみてぇ〜」
「・・・・・・お母さん、か」
ラムダは公園のベンチに腰掛けると、ほほえましい親子の姿を目にした。ラムダには母親も
父親もいない。拾い主は彼をハイデッカー幼年学院に入学させて忽然と姿を消した。
こんな生い立ちのものがハイデッカー学院には多く居たので、彼もここまで成長できた
のであろう。
少し物思いにふけるラムダだったが、意を決したように立ち上がった。
「・・・行くか」
ラムダが公園を出ようとしたその時、白いマントを羽織った人が道を横切って行くのが見えた。
周りの人は物珍しそうにその集団を眺めている。ラムダは人だかりに駆け寄って、話を聞いてみた。
「知らない？あれがエリートパイロット集団"セインツ"よ」
「セインツだって！？」
白いマントを羽織った人間が３人、帯剣し、それぞれの背中に"δ"、"и"、"κ"と
ふってあった。ラムダは人ごみを掻き分けて駆け寄ると、顔も隠されている
セインツ・メンバーに向かって叫んだ。
「すいません！レオナード・レルラーと言う方をご存知でしょうか！？」
セインツはぴくりとも反応せず、そのまま通り過ぎようとした。
「私は連合企業軍中尉ラムダベート・カイハイセンであります！是非会わせていただきたい！」
セインツはラムダベートという名を聞いた瞬間に止まった用にも思えたが、
とにかくセインツは急に聞く耳を持ち、"δ"とナンバーがふられたセインツ・メンバーが
話し掛けてきた。
「これは失礼をしました。レオナード・レルラー大尉への面会ですね？」
ラムダは急な態度変換に不信感を抱きながらも、レオナードに会えるチャンスは
またとないと思い、三人についていくことにした。観衆の目が気になるものの、
５分ほど歩いて細い路地に差し掛かる道で急に立ち止まられた。
「すいません、本部の位置は極秘事項なので、ここから先は意識を失ってもらいたいのですが」
ラムダは少し驚いたが、これもレオナードと会うためだと思い了解した。"δ"とふられた
メンバーがラムダの首に注射をし、ラムダは気を失った。
次に目がさめるとラムダはベッドの上にいた。１５分ほど眠っていたようだった。
「こ・・・ここは・・・？」
どこかで見たことのあるような光が自分を照らしていた。手術台のような上に
ラムダは寝かされていた。
「お目覚めですか。ようこそ、セインツ本部へ。私はナンバー"δ"エナ・ラルフローレンス
と申します」
ラムダはまだ首にちくりと痛みを感じたが、ゆっくりと体を起こした。
エナの肩についている階級証で彼女が少佐だということがわかった。
「あの、レオナード・レルラー大尉は・・・」
「レルラーは応接室に待たせてあります」
自分は中尉なのにレオナードはもう大尉か・・・と思うラムダだったが、たった一年で
少尉から中尉に昇進したラムダも十分すごいのである。ラムダは応接室に案内してもらった。
そこに付くまでに第一声を考えていたのだが、結局思いつかなかった。
「大尉、カイハイセン中尉をお連れしましたよ。では私はこれで」
そういうとエナは去っていった。ラムダは深呼吸をすると、ドアを開けた。
「カイハイセン中尉、入ります！」
「・・・久しぶりだな。敬語はいらないぜ」
ラムダの目に映ったのは紛れもない、レオナード・レルラーその人だった。
彼は白いマントを羽織り、他の隊員同様に背中と肩には"ν"とふってある。威圧的な
サーベルも持ち合わせていた。
「久しぶり、こうやってまともに言葉を交わすのは一年以上ぶりだな」
なんとか雰囲気に打ち解けようとしたラムダだったが、レオナードはおかまいなしに
絶対的空気を創造する。
「で、なんだ？俺に何かあるんじゃないのか？」
「・・・まず一つ、パッタを知らないか？連絡が取れないんだ」
ムダ話は本題に入るのを妨げると思い、とりあえず気がかりだったパッタのことから
聞いてみた。
「ラメロットか・・・知らないな。ここに来てから特に会ったこともない」
予想通り愛想のない返事が帰ってくる。さらにラムダは真の本題に迫った。
「もう一つ・・・研神機関っての、聞いたことがあるか」
レオナードのまゆが一瞬ピクリと動いたように見えた。しかしレオナードは知らないと言う。
「いや、最近とてつもなく強い奴と戦ってね。そいつと何か関係があるみたいなんだ」
「・・・俺より強かったか？」
「たぶんな」
沈黙が流れる。しかし二人は沈黙なんてものには慣れっこだった。
「ック・・・ック・・ハッハッハ！！」
「ハッハハハ！！」
ラムダとレオナードは思いっきり笑った。それは久々に二人が笑い合う姿だった。
「言ってくれるなぁ、天下のセインツ・メンバーより強い奴か！」
「嘘じゃねぇぞ！ハンパじゃなかったんだ」
二人がしばらく笑った後再び沈黙が流れる。そこへさきほどのエナ・ラルフローレンスが
入室してきた。
「申し訳ありません、レルラー大尉、出動よ」
セインツに出動命令が下った。テロリスト大規模集団がコロニー近くに出現したと言う。
すでにＡＣ部隊が鎮圧に向かっているが、苦戦しているとのことだ。コロニーの通常兵力を
これ以上は避けないので、セインツに出動命令が下った。
「・・・」
部外者であるラムダの前でこんなにも正確にミッション内容を明かしていいものかと
疑うものの、天下のセインツの情報は少しでも多く仕入れておきたかった。
「すまんな・・・ラムダ」
「いや、今日はありがとな」
ラムダはバッグをとって返ろうとした。レオナードはラムダが部屋を出ようした時、
彼を引き止めていった。
「・・・・・・どうだ、見てかないか？」
「コロニーより１５ｋｍのＦ地点にて部隊を展開する。二人とも気を抜かないように」
今回出動命令が下ったのは１２人いるセインツのうちたった３人だけだ。
新隊員指導係のナンバー"δ"エナ・ラルフローレンス、それにレオナードの一期前
（あのケーリッヒ・シュタイナーの兄）ナンバー"μ"ボルギーニ・シュタイナー、
そしてナンバー"ν"レオナード・レルラーである。
「カイハイセン中尉は長距離カメラでご覧していてください」
エナ達三人が予定ポイントに到着した時、先に派遣されていた第１６５ＡＣ中隊は
半壊滅状態であった。
「１６５中隊の指揮官は！？」
エナが通常回線で呼びかける。だがすでに指揮官は倒され、まったく統率がされて
いなかった。
「１６５中隊員は各自の判断で戦線から離脱せよ！ いくぞ！！」
エナの掛け声とともに３機の白いＡＣは敵陣へ突っ込んでいく。敵の数は減ったとはいえ
３０機を越えるほどだった。
「ん？撤退していきやがる・・・あ、あれは！」
最前線の一人が三機の白いＡＣに気付くころにはテロリスト側の前線は壊滅状態に
陥っていた。
エナＡＣの援護射撃を受けつつレオナードとボルギーニがそれぞれの両手の高出力ブレードで
一度に２機づつ葬っていく。二人が前線を数秒間駆け巡っただけで十数機の鉄塊が
出来上がった。テロリストＡＣからの銃弾を、残像が残るほどのスピードで交わしながら、
一直線に団長と思われるＡＣの前までたどりつく。
「これがっ、セイン・・・うぁぁぁぁ！！！！！！！！」
テロリスト集団の団長があっけなくコクピットを貫かれた。すかさずエナが広範囲ボム攻撃
を行う。なすすべもないまま次々とテロＡＣがやられていく中、悠然とレオナードと
ボルギーニはもといた場所に帰ってきた。
「す、っすげぇ・・・」
ここまでの強さにはもちろんＡＣの性能の差があった。しかしそれを乗りこなす彼らは
もっとすごいのであった。ＡＣ"ライフレス"は純白の特注ＡＣで、規格外品である。
通常装備はブレード二本（それぞれ右腕のブレードはガンの、左腕のブレードはシールドの
役目を果たすことも出来る）のみである。
ラムダはその後ハイランド・コロニーまで戻り、セインツ本部に戻ることなくそのまま
宇宙港まで送ってもらった。というのも、セインツが敵を片付けていたころラムダの
メールバンクに奇妙なメールが入っていたのだ。"明日のカルナック星の天気は一日中
血の雨、午後からは肉塊が降るでしょう"というものであった。エナとボルギーニは報告書を
作成しなければいけなかったので、つきそいは制服を脱いだレオナードだけであった。
「滞在は一日だけか」
「あぁ、こっちも何かと忙しいんでな。すぐにでもカルナック星に帰らないといけない」
ラムダは謎のメールのことはレオナードに伏せておいた。いたずらだと思うことにしたが、
どうも胸騒ぎの止まないラムダであった。
「また会おう、じゃあな」
そういうとレオナードは歩き去っていった。ラムダはやれやれと思いながらもそのまま
シャトルへ向かった。彼がコロニーを離れたのはＵ.Ｅ.２７１、３月６日のことだった。
セインツ、脅威的な戦闘力ですね。
どれだけ強いACでも使う者の腕がなければ扱いきれない。
ラムダがもうちょっとがんばれば扱えるかな・・・？
ルノリアと同じようなものが合計６体・・・敵なのか味方なのか？
どちらにしても、厄介なのは間違いなし。
バッタにも会えないし、この後、どういう展開になるか興味津々。
SALさん、執筆、がんばってくださいね。
本業に支障をきたさない程度に。（＾＾；）