『・・・07:00・・・06:59・・・』
無人艦隊では静かに攻撃準備が進められていた。
「・・・・・戎！！」
リンは自分自身の反応能力を急上昇させると、瞬時にしてラムダをブレード圏内に収める。
ゲルニカの攻撃に対してバリアを結界のように展開しながら斬撃を浴びせる。
「っち！はやいっ！」
ゲルニカのハイパーブーストよりも高速の燐鬼は２、３度ブレードを振るうも、紙一重で
それを交わされる。リンは回りの燐鬼に命令を下した。
「・・・・・円囲攻撃開始！！」
リンの合図で配下の燐鬼５機はラムダを取り囲むように周りを回転し始めた。リンはラムダの
攻撃を自分に集中させるかのように常にラムダの前に出るように動いた。
「そっちがその気ならこっちもだ！」
ラムダはダッシュ方向を後ろから急に前に変えた。リンは避けきれずにラムダと激突する。
間髪居れずにラムダはブレードガンを発射した。レーザーブレード級エネルギーの塊が幾条も
リンを襲う。リンは同等のレーザーでシールドを展開、これを防ぎきったかのように見えたが、
何発も放たれたレーザーはたった一点のみを狙っていた。
「！？」
バリアは一点加重攻撃に耐えられず、本体へのダメージを許してしまう。
「この超高速下で正確に一点を狙ってくるとは・・・・・これならどうです？・・・連係九位
下三位 "強麁風"！！」
周りを回転していた燐鬼が一気に円の半径を縮めた。何時の間にか手には短剣が握られていた。
「キョォォォォォォ！！！！！！」
燐鬼達が５方位からの一斉攻撃を掛けた。普通のパイロットとＡＣならひとたまりも無かっただろうが、
ラムダには一人一人の攻撃を的確に捕らえ、瞬時に最適回避ラインを割り出した。
『リューネ・・待ってろ・・・いますぐ・・・行く・・』
ラムダは短剣と短剣の間をすり抜けるような動きで、この攻撃をしのいだ。そして燐鬼の
上空に位置取ると、真上から燐鬼を１機ブレードで貫いた。
「なんと、強麁風から防がれるとは・・・・・・ではこれではどうだ？ 下三位 "強細風"！！」
生き残っている４機の燐鬼が１直線上に並んだ。４機全てが同じスピードでラムダに突進していく。
「キョェェェェェェ！！！！！！」
一時的に反応能力を限界以上に上げた燐鬼が高速でラムダを通り過ぎて行った。
燐鬼とゲルニカが接する瞬間に、それぞれが会心の一撃をラムダに浴びせた。
「・・・ギギ！？」
燐鬼の会心の一撃もむなしく、ラムダはそれら全てを肉眼で確認、流れるように回避した。
しかしオリエント族の戦士は己のプライドにかけて、必殺技と名乗った以上強細風を失敗する
わけにはいかなかったのだ。
「ギギィ！！！！」
燐鬼らは立て続けに強細風を発動、執拗にラムダを追い続ける。しかし・・・
「ギ？ギギ？ギギイィィィ！！！！！？？？？？」
燐鬼は脚部、腕部、頭部、そして胸部と次々に圧壊していった。
「オリエント族がバカだってのは、本当だな」
ラムダは何事も無かったかのようにリンの前に立った。最新鋭のゲルニカと
燐鬼では重力耐久値の桁が違ったのだ。
「まったくその通りです。しかし私は違います」
「あんたもバカだよ」
ラムダはブレードガンをリンに突きつけた。
「いいことを教えておいてあげましょう。あと５分ほどでこの星には核の雨が降り注ぎます」
「何！？」
「つまり・・・・私にも時間が無いのですよ！」
リンは一度機体をがくっと崩したかと思うと、前傾姿勢でラムダに突っ込んできた。
「単独九位 中三位 "正花風"！」
リンは燐鬼の両腕から合計６本の短剣を取り出した。そしてダッシュ中に超高速でそれら
短剣をラムダに投げつけた。すさまじいスピードで短剣はラムダを狙う。
「なんてスピードだ！！！？？？」
重力フィールドでは間に合わないと悟ったラムダは４本を辛うじて避けるも、残りの２本が
ゲルニカの右腕ジョイントと右足ジョイントに突き刺さった。一瞬にしてゲルニカの動きは大幅に封じられた。
「これぞ"正花風"なり！！」
短剣がラムダに突き刺さり、ゲルニカの動きを止めると、０コンマ数秒遅れてリンがブレードで
斬りかかった。ラムダはとっさに胸部を守ろうと右腕を前に出した。ブレードはラムダの右腕を
肘部分で真っ二つに斬り落とした。無残にもラムダの右腕が地面に叩き落とされた。
「これが・・・アサシン・リンかっ」
ラムダは左手のブレード出力を最大限に上げ、近接戦闘に入ろうとした。
しかしリンが速すぎて捕らえることが出来ない。
「もう一度くらうが良い！"正花風"！」
リンは再び短剣を取り出した。今度は至近距離からラムダにそれを投げつけた。
「一回見させてもらった！俺をそこらへんのパイロットと同じと思うなよ！」
ラムダは重力フィールドを短剣の軌道上に展開、短剣の速度を殺すと、
左手のブレードで逆にリンに斬りかかった。
二本の光の剣が眩い閃光を放った・・・・・・・しかし右手の使えないゲルニカに勝ち目は無かった。
「これで決まりですねっ！！！」
リンは空いている右手に再び短剣を構え、ゲルニカのコクピットに突き刺そうとした、その時・・・
「なめるなよ！！これがっ！これがゲルニカ５つ目と６つ目の特殊機能だ！」
「なっ！？」
ラムダは瞬時に自爆装置を立ち上げた。その直後ラムダは重力フィールド発生を
タイマーで２秒後に設定して起動、最後の機能、脱出用飛行ポッドでゲルニカの背中から空に飛び出した。
「キィ！？キキィ！（何！？自爆か！）」
リンは最後の力を振り絞って胸部バルカンでポッドを撃った。弾はなんと命中し、
ポッドは地面に叩きつけられたが、二秒経って重力フィールドが二機を包み込んだ。
ルノリア戦の応用であった。
そして地面に叩きつけられたポッドでは・・・
「う・・痛たた・・・・・っは！？時間が無い！」
ラムダは即座にポッドの扉を抉じ開け、外に飛び出すと、近くの溝に隠れた。そして・・・
「キィィィィィィィィィィィ！！！！！！！！！！！！！！」
ゲルニカの自爆装置が作動、大爆発を起こした。ゲルニカとリンの燐鬼は爆発で完全粉砕
された。と同時に重力フィールドが切れ、爆風があたり一面を駆け抜ける。
「ぐっ！！！」
ゲルニカか燐鬼か判別のつかないＡＣのかけらが爆風と共にあたりに飛び散り、
ラムダは身をかがめてそれらをやり過ごした。
「・・・！」
爆風が収まると、ラムダはすぐに旧本部の地下へ走った。
「・・・・・・なかなかやるもんだ・・・・・・・」
高台の上でリンは体中に被ったほこりを払いながら呟くと、姿を消した。
「リューネ！リューネ！」
ゲルニカの爆発の振動で天井が崩れ落ちたり、燐鬼の攻撃で中が荒らされていたり、
と内部は崩壊寸前だったが、とにかく必死にリューネを探し回った。恐らくオリエント族の
戦闘員が何人か侵入したのであろう、９８連隊員との交戦の後も見られた。
「駄目だ・・間に合わない！間に合わないよ！」
ラムダは銃を構えながらリューネを探し回ったが、どの部屋を探してもリューネは見当たらない。
それでも刻々と時間は失われていく。とうとう残り２分をきった。
「どこだ！どこにいる！リューネ大尉！」
ラムダが作戦司令室に差し掛かった時、今まで以上に濃い血の匂いが鼻に突き刺さるように入ってきた。
見れば部屋の隅っこにリューネが蹲ってガタガタと震えていた。
「！？リューネ大尉、リューネか！？」
死体がここに集められたのか、それともこの部屋が最後の抵抗だったのかはわからないが、
作戦司令室には幾十の死体が地面に寝転がっていた。
「・・・・と・・が・・・ひ・・・と・・・」
「リューネ大尉、もう大丈夫だ！大丈夫、大丈夫！」
ラムダは必死でリューネを抱きかかえ、地上へ走った。全速力で走り、二人で地上に出た・・・その時・・・
『00:02・・・00:01・・・FIRE』
無人核ミサイル艦から核ミサイルが発射された・・・カルナック星の全てを消し去るように
インプットされた超強力の核ミサイル３５４機が・・・
そのころゼファーも肉眼でミサイルを確認、急いで輸送船を立ち上げていた。
「やばい！核ミサイルや！しゃあないなぁ、もう！・・・・・・第一神経接続・・・精神跳躍！」
ゼファーは全神経を集中・・・頭の中でラムダを見つけると、輸送船ごとそこへテレポートした。
「・・・タイムオーバーか・・・リューネ大尉、申し訳ありませんでした・・・私は・・私は
・・・・・・！？！？！？」
と言いかけたところで、いきなりゼファーと輸送船が現れた。
「ラムダはん！質問は無しや！はよ乗って！」
「！？」
リューネは涙と血でくしゃくしゃの顔を上げた。
「わ、わかった！頼むぞ、ゼファー！」
ラムダはリューネを抱き上げ、輸送船内に駆け込んだ。ミサイルはもうすぐそこまで迫っていた。
「エタリカ号緊急発進、ショック吸収フィールド展開！」
これから長い付き合いになるだろうこの船の名前を明かすことにしよう。輸送船"エタリカ"号、
これがこの輸送船の本当の名前だった。
「あと１５秒で着弾するで！総員耐ショック用意！」
ゼファーは機体を浮き上がらせると、超ダッシュで空を駆け上った。しかし思いのほか速度が伸びない。
「あかん、ここの引力がきついんや！エタリカはこの星の引力から逃れられへん！」
「ゲートは開けないのか！？」
「ゲートはエネルギーが・・・・・・ミサイルや・・・・」
エタリカ号の近くを一本のミサイルが通り過ぎていった。辺りを見回してみると、数十のミサイルが
地上に向かって落ちようとしていた。
「しゃあない、二人とも目をつぶりなはれ！」
ゼファーは再び全神経を集中、なにやらぶつぶつと言い始めた。ゼファーが再び目を
見開いたとき、すさまじい衝撃が船を襲った。核ミサイルの一団が地上に着弾したのだ。
「うぉぉぉぉぉ！！！！」
ゲルニカがすさまじい振動に揺られながらも、ラムダは決して目を開けなかった。しばらくして
振動が無くなり、そっと目を開けると・・・
「こ、ここは・・・宇宙！？」
エタリカ号は何時の間にかカルナック星とはまったく関連性の無い宙域に出現していたのだ。
「テレポート。ゲートを使った超空間跳躍とはまた別のワープ方法や。まぁ魔法みたいなもんや」
「テレポート・・・ゼファー、あんた何もんだ？」
「それより恋人はんは大丈夫なんでっか？・・・わてはちょっと眠らせてもらいます、
二回も飛んだんで・・・体力が・・・・」
ゼファーはそのまま眠りについた。すでにオートナビゲーションシステムに切り替えられていた。
「あ・・・あ・・・」
リューネは必死に何かを伝えようとしていたが、その口から言葉らしい言葉が出てくることは無かった。
「リューネ大尉、ひょっとして・・・言葉が！？」
リューネは眼前であまりに多くの死を見てしまったがために、失語症にかかってしまっていた。
よく見てみれば、体中に無数の傷も見受けられ、ラムダはとりあえず一通り手当てをすると、
クタクタだったリューネを寝かしつけて、一人考えにふけった。
「なぜ俺は追われてるのか・・・俺のせいで星一つが犠牲になってしまった・・・それでどのことを俺はしたのか？」
「・・・・そんな馬鹿な・・・・・ふぅ」
ラムダはコクピットへ向かった。座席ではゼファーが眠りこけている。
「コンピューター、現在の宙域はどこか」
『ＵＥ管轄内の宙域に該当はありませんでした。最寄の宙域検索中・・・最寄の宙域はワルプルギス宙域です』
「ワルプルギス・・・ワルプルギスだって！？」
「ワルプルギス、カーマのある場所や」
ゼファーはいつの間にか目を覚まし、コンピューターにワルプルギス宙域を進路に定めるようインプットした。
「お、おい！ワルプルギスに行く気か！？」
ラムダは設定を解除するためコンスールに手を伸ばすも、ゼファーに遮られた。
「いい考えがありますねん。ワルプルギス、ここはＵＥでも容易には近づけへんところや。
このワルプルギスのカーマ・コロニーに密かに居を置く集団がありますんや」
「カーマ・コロニーに・・・・ってそんな馬鹿な話あるかよ」
「"カノン"わしもその一員ですわ」
ゼファーは服をめくると、肩に刻み込まれた"Canon"の刺青をラムダに見せた。
「・・・・しかしカーマって言ったら・・・・」
「ラムダはんとリューネはんなら歓迎してくれます。安心しなはれ」
しばらく沈黙が流れたが、ラムダは決意した。コンソールから手を離すと、再びリューネの元へと向かった。
「やっぱりＵＥの兵士やったらカーマには拒絶反応おこしはりますなぁ・・・・・・さて、一眠りや」
ゼファーはため息をつくと、再び眠りについた。
場面は変わって・・・
「リンのやつめ、しくじったか」
黒マントの男は暗殺失敗の報を受けて次の手を考えていた。
「閣下、リンの報告によると、奴らはテレポートを使ったということです」
リン・ホウはカルナック星を独自の方法で脱出した後、報告書だけを送ってその姿をくらましていた。
恐らく報復でも恐れたのであろうというのが大方の見解だった。
「何だと！？テレポートを使える奴はわしを含めて・・・まさか・・・」
「っは。恐らくカノンの長、ゼファー・ボルラスかと。どうされますか？」
「ということは、奴らはワルプルギスに逃げ込んだと言うわけか・・・よし、いい機会だ。ヨハン、
セインツを召集しろ」
「なっ！？閣下、ワルプルギスには足を踏み入れてはいけません！セインツを送るのは危険すぎます！」
ヨハンは急に顔を上げ、ガゼルと呼ばれる男を必死に止めようとした。
「黙れ！指揮は私自らがとろう。奴の使い道もあろう」
「奴と申されますと・・・パッタ・ラメロットですか？」
「そうだ。とにかく出撃準備だ」
「・・・・御意」
リューネさん、救出できてよかったですね。
ちょっと心に傷を負ってしまいましたが、ラムダ君の
がんばりに期待したいところです。
・・・それにしてもただのおじさまかと思ったら、
テレポートを使いこなす妖しげな人だったとは。
さて、セインツが動員されるようで、次回は波乱の予感。
当分、ラムダ君に安息の日々は訪れないみたい。
続きが楽しみ。ＳＡＬさん、がんばって書いてくださいね。