「ガータルト（注 前回出たラムダの偽名のこと）はん、おはようさん」
ラムダとリューネにとってワルプルギスで迎える初めての朝がやってきた。恐ろしいほど熟睡できた
ラムダはとりあえず朝ご飯を食べ服装を整えると、ゼファーとマーブルに連れられてカノン総督室へ
向かった。朝ご飯中ラムダはリューネに話し掛けてみたものの、笑顔がこそ見られたが、声が返ってくる
ことはは無かった。
『ラムダはん、今から会うカノン総督、ＣＴＭ同盟主は言わばテロリストのトップや。くれぐれも
元ＵＥやなんてボロをだしたらあかんで』
ゼファーがマーブルに聞こえないようひそひそ声で話す。
『・・・ＵＥに居たころ、カノンの総督と言えば完全な極秘事項だった。名前さえ明かされやしなかった。
それほどの人物にどこの馬の骨かもわからないような俺達が会ってもいいのか？』
『心配せんでええ。わしが保証したる』
そうこうしている内に、四人は総督室についた。他の部屋とまったく同じ扉をしていることは侵入者を
意識してのことだろうか。またプレートには"第７兵舎"を記されており、見張りは立っていなかった。
ゼファーは総督室の呼び鈴を鳴らした。するとロックが解除され、先にゼファーが中に入った。
「お二人はちょっと待っててくれなはれ」
ゼファーが中に入って３０秒ほどすると、お呼びがかかった。
「しっ、失礼します！」
ラムダとリューネは緊張した面持ちで総督室の中に入った。現在で言う西洋的な内装で部屋は飾られて
いた。中には身の回りの世話をしているのであろう女性が一人、そしてカーテンで仕切られた部屋の奥には
男性らしきシルエットが映し出されていた。
「よく来られましたね。緊張しないでけっこうですよ」
「！？」
カーテンで仕切られていたため姿はわからなかったが、声は予想外に若い男の声だった。ボイス
チェンジャーでも使っているのかもしれないという感はあったが、ラムダにはそれが地声のように聞こえた。
『こいつがカノン総督・・・イメージとは違ったな』
ラムダは、人間とは会ってみないとわからないものだと思った。
「私がカノン総督ことヴァレンタインです。ガータルトさん、アメジストさん、我々カノン及びＣＴＭ
同盟はお二人を歓迎いたします」
「こっ、こちらこそよろしくお願いします」
ラムダはリューネに何か喋らそうとしては見たが、やはり言葉は出てこないようだった。といっても総督も
リューネの失語症については知っていたようなので、特に問題はなかった。
ヴァレンタイン、これは裏の世界での通称である。分けあって今、本名を明かすことはできない。
通称以外はすべて不明で、"名無しのヴァレンタイン"とも呼ばれる。戦線に出ることはめったに無い。
ＡＣ技術はからっきしだが、指揮能力や統率能力は抜群である。
ヴァレンタインがゼファーに何か命じると、ゼファーは一枚のディスクを持ってきた。
「ガータルトさん。あなたのパイロット技術はゼファーから聞きました。是非その腕を我らがカノンで
活用していただきたいが、どうでしょうか」
どうでしょうか、と言われても、ラムダにはＡＣに乗るしかなかった。リン・ホウとの戦いでＡＣを
失って、それまでずっとＡＣにいつでも乗れる状態で生きてきたラムダは不安でたまらなくなっていた。
リューネを守ることを考えてもＡＣは必要だった。
「もちろんです。衣食住を保証してもらっているのですから、何なりとお申し付けください。しかし、
どうかリリエラには・・・」
「はははっ、わかっておりますよ。リリエラさんには当分の間治療に専念してもらいますから安心して
ください」
ラムダはほっと一息つくと、ポケットコンピューターにディスクを読み込ませてみた。
「これは・・・・これほどのものを私に！？」
「地上、水中、宇宙、全環境に適応可能かつゾジックの戦闘能力の軽く３倍はあるＡＣ"グリーズ"です。
ＣＴＭ重力制御可能機の一番機、これだけの性能を小型にまとめるのにうちのメカニックが３年がかりで
開発したオリジナルパーツを使用しています。ＡＣとしての性能ではＵＥ−ＯＲにも引けをとりませんよ。」
ラムダは本当にそう思った。彼の搭乗していた機体ＵＥ−Ｍ−０４Ｔ"ゲルニカ"でさえＵＥ−Ｍ−０３
"ソルジャー"の１．８倍の戦闘能力（総合能力）を有していたのだが、グリーズは数値上ではＵＥ−ＯＲの
公式資料と同じゴリアテの３倍の戦闘能力を有しているのだ。ＵＥ−ＯＲ"ライフレス"は２００年以上
前から少しずつバージョンアップしてきた機体、現在の期待は正式にはＵＥ−ＯＲVer37と言われている
のだが、今までそれに匹敵する機体は造ることが出来なかった。それは重力制御の情報をＵＥが全て
差し押さえていたからだが、２００年間でＵＥ以外の組織でも重力制御可能な兵器を作ることが
出来るようになったと言うわけだ。
「総督！失礼します！！」
突如兵士が総督室に駆け込んできたのはラムダとリューネが退室した後のことだった。二人はマーブルの
案内で施設観光に出向いていた。
「報告っ！ＵＥが当宙域に向かって軍を動かしているとの入電あり！」
「なんやて！？」
まだ部屋にいたゼファーは兵士の話に耳を傾けた。
「"ナイチンゲール"からの報告によりますと、ＵＥは当宙域を中心に銀河系各所のＣＴＭに向けて
軍を送った模様、こちらにはセイント５名と艦艇１２０００隻が動員されました！
指揮官は軍務大臣ガゼル・ハルバード！」
「ガゼル直々に！？あいたっ！」
ゼファーは余りの驚愕さに足を机の角にぶつけてしまった。これは痛い。
「慌てるなゼファー。今日が４月１日ということはここに来るのが４月２０日にはなるか。
ワルプルギスが銀河の果てにあって助かったな・・・・ＣＴＭ加盟の全組織に第二種戦闘態勢を引く。
ガゼルの狙いはあくまでもＣＴＭ中心組織だ。カノン、レッド・ヘッド、ネブラ騎士団等の大組織に
戦力を集中させるよう手紙を出せ」
「御意！」
兵士はまた慌しく部屋から出て行った。
「ゼファー、カノンの幹部を集めてくれ。緊急会議を開く」
「御意！！」
ゼファーはぶつけた足を引きずりながらも部屋を飛び出していった。
ラムダとリューネが一通りの観光とグリーズとの顔合わせを終えたころには、夜になっていた。
公園のベンチに腰掛けた二人だったが、マーブルは途中で呼び出しがかかって姿を消していた。
「あ〜、今日一日疲れたな。グリーズ、あんないいＡＣを操縦させてくれるなんて感激だ〜〜〜」
ラムダはリューネと再会して以来、彼女に対して敬語を使うことは無かった。それは彼女との上下関係が
事実上消滅したことがあるだろうが、自分はリューネを守らなければならない、そしてリューネに恋をして
しまっている、そう想いだしたがため自然に一番使い慣れた喋り方、すなわちどんな人に対しても
あまり敬語を使わない性格が作用したためと思われる。
「・・・・・」
「・・・・・・・俺はとりあえずここでＡＣパイロットとしてやっていこうと思う」
リューネの心がまだルノリアに取り込まれたトレントにあるだろうとラムダは予想していた。
ラムダは恋愛には興味の無い人間だった。事実、学院時代にはレオナードばかりに女子生徒が集中
していたが、そんなことには気をも止めていなかったし、今でもそれは言える。しかしリューネだけは
違ったのだ。自分のせいで多くの仲間を失い、リューネをも危険な状態に置いている。トレントとは
悲惨な別れ方をしてしまっている。そんな中ただでさえ不器用なラムダは、リューネに告白すること
などできないと思っていた。そんな感情は忙しさが振り払ってくれるだろうと思っていた。
「・・・・・・・今まで矢のように時間が過ぎてきたから何も考えられなかったけど、今はＡＣに乗る
しかないと思っているんだ。カノンに尽くすべきだと思っているよ・・・。
ヴァレンタイン総督、ゼファー、マーブル、みんないい人だ。でも俺は回りにいたいい人達を
ここ数年でたくさん失ってしまった」
久しく忘れていたかのような悲しみの感情が込みあがってきた。人の死を哀しむ暇さえ
与えられなかった彼に落ち着きという場が与えられたことによって、悲しみの波が一気に押し寄せてきたのだ。
「俺達が狙われている理由、いろいろ考えてみたんだ」
ラムダはまずルノリアや研神機関に関わったことが原因では無いかと考えたのだが、それでは
自分一人だけがＵＥに指名手配されていることが腑に落ちなかった。カルナック星住民が全員
殺されたのは同機関に関わったことが原因であったかもしれない。しかし現在リューネは指名手配
されていないのだ。このことからラムダは何か別の理由でＵＥに指名手配されているのではないかと考えた。
もちろんまったく身に覚えが無い。一方リューネはこれからもリンのような暗殺者に狙われるで
あろうことが予想できた。その理由は"研神機関に関わったものの排除"ということになるだろう。
ラムダは、自分を狙っている組織と自分達を狙っている組織が同じなのか違うのか判断できないでいた。
「・・・・・」
その時リューネも瞳からは一筋に涙が零れ落ちた。それは現状の厳しさに対してではない、
ラムダに対して贈られた涙だった。
「リューネ？・・・そっ、そうだ！もう遅いし寝なくちゃ！」
ラムダは慌てふためいて、無理やり就寝についた。
４月４日０時、ワルプルギス宙域全域にＵＥ軍襲来の報並びに第一種警戒態勢が公布された。
兵士Ａ：「おいおい！？なんだって！？」
兵士Ｂ：「セイントが５人だろ！？勝ち目はあるのか？」
兵士Ｃ：「今のうちにとんずらした方が・・・」
館内放送を聞いた直後、カノン本部でもその圧倒的な敵兵力に兵士達はパニック状態にまで
なったが、すぐにこれらを一蹴する計画が発表された。兵士達は一斉にポケコンのモニタに食い入った。
兵士Ａ：「おい見てみろよ。何々・・・・」
時間が無いこの現状で、徹夜に次ぐ徹夜で考え出されたＣＴＭ総意の作戦はこうだ。
"ナイチンゲール"からの情報により、ＵＥが今回全宇宙に派遣した軍隊をトータルすると、
セイント８人、艦艇３万４千隻、ＡＣ４６万機であることが判明した。内セイント５人、
艦艇１万２千隻、ＡＣ２０万機がワルプルギス宙域に来るわけだが、ＡＣ２０万機と言っても
全宇宙に３６５０ある有人ＡＣ部隊のほとんどは駐留星系を離れられないので、その大半が
無人ＡＣの部隊ということになる。予測でも１６万は無人ＡＣのはずであった。またＵＥ軍の
重要ポストについているカノンの内通者がワルプルギスに派遣されていた。その人物の
コードネームが"ナイチンゲール"なのだが、なんとナイチンゲールが指揮する部隊が反乱を起こし、
寝返ってくれるというのだ。まるで関ヶ原の小早川みたいな話だが、ナイチンゲールのことは
ゼファーも良く知っており、信頼できる人物らしい。またＣＴＭにとって幸いだったのはイシス砲が
動員されていないということだった。現在ＵＥが所持するイシス級レーザー砲は１門のみ。
ＵＥ８８年の時点では５門あったのだが、カーマ・コロニー破壊のために使用された４門全てが
出力オーバーで焼け落ちたことと、１４０万人もの住民を焼き殺した当時のＵＥ総督が
後ろめたさもあって、イシス級レーザー砲の生産を停止したためだ。この誓いは"カーマの誓い"と
呼ばれ、ＵＥ裏の世界で固く守られている。しかし１門"ヴァルキュリー"だけは非常用として
封印されながらも存在している。
兵士Ｃ：「ナイチンゲールが裏切ってくれるのか。それは心強い味方だが・・・我々の常備軍は
有人ＡＣがせいぜい６０００、それに無人ＡＣが４万だ。レッド・ヘッドやネブラ騎士団の応援に
ナイチンゲール旗下の部隊が寝返ったとしても８万がいいところだぞ。結局話にならないんじゃ？」
補足文にはこう続いていた。"無人ＡＣのコンピューターは一機一機が完全に独立しており、
外部からの撹乱は不可能である。識別信号さえ偽造してしまえば無人ＡＣなど恐れるにならないが、
これは超極秘事項のため外部に漏れることはない。しかし今回ナイチンゲールからの情報で、
セキュリティーのため毎分変化する識別信号パターンのわずか２分だけのパターンを提供して
くれたのだ。これは２分間手に入れられただけすごい方で、ナイチンゲールがけちなわけではない。
これにより２分間だけ主導権を得ることのできる我々はその２分間にできる限りの敵を排除、同時に
ナイチンゲールに寝返ってもらい、敵本陣及び有人ＡＣ部隊に総攻撃をかける。"
兵士Ｂ：「なるほど・・・これならいけるかも・・・」
兵士Ａ：「そうだな。どちらにしろＵＥとはいつか決戦をしなくちゃならないんだ。
よし、やるぞ！！！！！」
兵士ＡＢＣ：「オオオー！！！」
カノン兵達が活気付いていたころ、ラムダは複雑な心境でいた。ゼファーが有無を言わせずに
来るべきＵＥとの戦いへの出撃を命じたのだ。２０日もあれば新ＡＣの動作を覚えることができる、
ゼファーはそう断言した。重力制御のノウハウがあるラムダにもそれは可能だとは思ったが、
元ＵＥ兵士である彼が戦闘中に裏切って情報を漏洩するなどとは考えなかったのだろうか。
「それにしてもハルバード軍務大臣自ら出陣とは、俺が居たころには考えられなかったな・・・」
ラムダの在軍中に聞いたガゼル・ハルバードの噂はこうだ。"根暗"、"陰謀家"、"ホモ"。最後の一つ
に関しては根拠が定かではないが、ヨハンとの関係が囁かれているらしい。どっちにしても良いイメージの
大臣では無かった。しかしその権力は絶大で、あの悪名高いハイデッカー学院の卒業試験制度は
事実上彼が作ったのである。
「戦っていれば何も考えなくていい、そう思っていたけど、今回は違うのか」
もしからしたら遠征軍の中に学友が居るかもしれない、もし居たとしても絶対にそれに気付きたくない、
そう彼は思っていた。そう思うと今まで敵を殺してきたことがラムダの心に突っかかってきた。
ＵＥ兵士はハイデッカー学院卒業の者もそうでないものも、幼少のころから"敵"を殺すことは罪ではない、
"友"を救うために"敵"を殺すのだ、と教わってきている。ちょうど今現在、こういう考え方が人に、
宇宙に定着しようとしていた。
「"友"、か」
ラムダが一番恐れていたのはセイント５名の中にレオナードがいるかもしれない、そのことだった。
勝てるか負けるかは別として、絶対に出会いたくなかった。
「でも俺は戦うしかないんだ。戦うしか・・・」
ラムダが自分の心が日に日に弱って行くことに、気付いていなかった。
方やＵＥ側では、軍務大臣ガゼル・ハルバードの乗るＣＴＭ撃滅艦隊総旗艦グランドールでは、
ガゼルとセイントだけの会議が執り行われていた。
「閣下、約束の時まで後１７年しか無いのにカーマに近づいて大丈夫なのでしょうか？」
ＵＥ暦８８年に起こった事件、これは最高機密事項としてコロニー住民１４０万人を滅却に
したことは明かされなかった。この事件はコロニーの環境操作装置の故障として発表され、
この事件に関わったＵＥ兵士はごく一部の人間を除いてマインドコントロールを施したか、
抹殺されるまでに至った。こうして事実は完全に闇の中へと消えてしまったわけなので、
今回遠征中のＵＥ兵士は上層部のガゼルとセインツを除いては１００％カーマ・コロニー事件に
ついて知らないのだ。ただ"環境操作装置の誤作動で１４０万人の人間が死んだコロニー"としか
認知されていない。それだけでも十分兵士達の怪談話のネタとなったのだが。
「何を言っておるか。報告は受けただろう。今ワルプルギスはとても不安定な状態にあるのだ。
いつカーマが反応を起こして１７年の時が１秒まで縮んでしまうかわからんのだぞ」
今回のＵＥ遠征、表向きの名目は"打倒ＣＴＭ 宇宙に平穏を"だったが、裏の名目はそうでは
なかった。それは自ずとわかっていくことだろう。
「諸君らセイントを５名も動員しておるのだ。失敗はありえないとは思うが、ゼファー・ボルラス、
ヴァレンタイン、そしてラムダベートだけには注意しろ。君達に与える任務はただ一つ、この者達の抹殺である」
「・・・ははっ。全てはガゼル閣下の思いのままに」
セイント達は円状に立ち、己の剣を前へ突き出して忠誠を誓った。
そんなこんなで時間は過ぎていく。４日から２週間とちょっと、両陣営の士気は良く保たれたと
言っていいだろう。ラムダは新ＡＣグリーズのパイロットとしてゼファーと毎日訓練に出ており、
日が立つたびにリューネと顔を会わせる機会が減っていたが、夜寝る前には必ず会話を交わす
ようにしていた。そして１９日の夜がやってきた。
ヴァレンタインとゼファーの夜は・・・
「総督の予想通り明日の１０時、敵の前線とうちらの前線が接触しまんな」
「そうだな・・・。ゼファー、これからも苦労をかけると思うけど、許して欲しい」
「何言ってますんや。わてらは家族みたいなもんや」
「ありがとう、感謝しているよ。だが約束の時まであと１７年しかないこの時期に軍を送って
くるとは、ガゼルは何を考えているんだ？このワルプルギス宙域になにか起こったとでも言うのか・・・」
「それはわしにもわかりまへん。最近この宙域にあった変化って言えば人が何人かやってきたことくらいや」
「・・・リンクス、それにリリエラ、か」
「あの二人が何か関係してる思いはるんか？・・・まさかぁ〜」
「そんなことはどうでもいい。必ずガゼルを打ち倒すのだ。そうすれば全てがわかる」
ヴァレンタインは拳を握り締め、打倒ガゼルを誓った。
ラムダとリューネの夜は・・・
「とうとう明日だ・・・リューネはちゃんとシェルターで待ってるんだよ」
「・・・」
リューネは微笑みでそれに答えた。
「この戦争が終わったらゼファーに頼んでパッタを捜索してもらおうと思っている。そのためにも
手柄をたてないとな」
「・・・」
「この戦争が終わったら、か・・・同じようなことを考えている人間が近くに何万人といる。
その中にはもしかしたら自分の家に帰れない奴もいる。でもみんな打倒ＵＥに全力をかけてるんだ。
昔、俺がまだＵＥにいたころ思ったんだけど、こんなにまで犠牲を出さなきゃ変えられないものなのかな。
卒業試験制度、強制徴兵制度、俺は小さいころに親を亡くしたからわからないけど、やっぱり親って
のは子供を戦争に出したくないものなのかな？」
「・・・」
「でもその親は強制徴兵で兵士になった子供に命を救われている。自分の子供をとられたＵＥに守ら
れている。それが現状じゃないか。なんか矛盾しているような気がする・・・世間はこんな制度いらない！
って言っているけど、そのためにカノンのような組織の人間の子供が犠牲になったりしている。いや、
もちろん俺もこんな制度は無いべきだって思っているけどね」
「・・・・？」
"じゃあなぜラムダはハイデッカー学院を卒業したの？ＵＥに入ったの？" ラムダにはリューネが
そう言っているような気がしたので、話しを続けた。
「小さくして孤児だった俺にはハイデッカー学院しか道が無かったんだ。もともとＡＣが好きだったし、
同じような境遇の仲間もいっぱいいるから、ハイデッカー学院でやっていけた。でも俺はＵＥに入る気は
無かったんだ。敵を殺すのは味方のため、そう割り切れなかったからね。パッタみたいに教育局に入れる
ほど頭が良くなかったし、入るとしたらＡＣパイロットしか道が無かった。そんな時、特別編入で
レオナードがやってきたんだ。俺が始めてあいつにあったのはその時だ」
「それではみんなに転校生を紹介しよう。レオナード・レルラー君だ」
「レオナードです・・・よろしく」
クラスに拍手で迎えられた彼は、無愛想な顔でふてぶてしく挨拶をした。その時のみんなはレオナードの
ことをあまり良く思っていなかったかもしれないが、彼の圧倒的カリスマ性を一度でも見たことのある人間は、
一瞬にして男女関係無く虜になっていった。ラムダもそんな一人だった。彼とレオナードはパイロット技術
の面からすぐに仲良くなり、レオナードと親しい中になったが、何時の間にかレオナードのことをライバル
として見るようになっていた。そして技術評価大会決勝戦でこてんぱんにやられたことをきっかけに、
レオナードを上回るべくパイロットになることを決めた。
「今思えば、レオナードに出会ってからの俺は敵を殺すことを昔よりも楽に思えるようになってしまった。
今でもそんな自分が怖い、それに嫌でたまらない」
「くしゅん！」
じっとラムダの話を聞いていたリューネだったが、時々公園に吹く人工そよ風にあたりすぎたのか
くしゃみをしてしまった。
「あ、ごめん。もう寝た方がいいね」
ラムダは上着をリューネにかけると、立ち上がって部屋に向かった。
「・・・」
去っていくラムダの後ろ姿を見て、リューネは何かを言いたそうだったが、ラムダを止めることはなかった。
１９日の夜はこうして静かに過ぎていった―――。
「総督！我が方の前線でいくつかのミサイル爆発を確認！自動迎撃システムが作動しています！」
「来たか！総員第一種戦闘配置、全軍予定通り行動開始！」
ワルプルギス宙域でミサイル爆発の閃光が兵士達の目をくらましたのが２０日の９時４６分、
ワルプルギス戦争開幕である。
投機性の高い作戦・・・大丈夫なんでしょうか？
遂に膨大な数の戦力同士が激突する戦争が始まっちゃいました。
こんな乱戦のなかＡＣはどれだけのことができるのか？
リューネとラムダの仲もいまいちですね。
心が揺れているとろくなことがありませんけど。
続きが楽しみ、楽しみ。読みたい人は感想メールを送付しましょうね。