裏第０２話「粋なおじさん趣味」

ＮＥＲＶ本部
技術部 第九課
別称「特殊技術創作課」
自称「Ｑ」
通称「ヲタク課」

構成員は課長である流ヨウイチに続き米田ケン、葛城カズヤ、飯島ユウスケ、渡辺ノアの五人である。
個性が在ると言うにはちょっと過ぎた集団。彼らは特務機関ＮＥＲＶ技術部の
中で最も常識的な非常識人達なのだろう。
もっとも「Ｅ計画」レベルが常識のＮＥＲＶならでは、なのは言うまでもない。
そしてこの九課の存在理由は通常では制作しないような
備品・装備・機械・設備の設計、製造にある。
学生時代からの異端者の集まりは超常現象の固まりである「使徒」と
対抗するには打ってつけな存在かも知れない。

「使徒殲滅」

これはＮＥＲＶ全職員に胸をなでおろす程の安堵を与える吉報であった。
そして、これから来るべき受難を示すようでもあった。各部署は気を引き締め、
改めて自分達の危うい立場を認識したようだ。どこか緊張感がある。
そしてここもまたそうだった。

パシュ
サイレンサーの装着がなされた銃声が聞こえ、近くをかすみ、
跳弾特有の高い音が響く。照明の落とされた部屋と言う密室はそれだけで
人を不安にする物だ。

「危ないなー」

緊張感を求めるなら、ココ以上に適切な場所な無いと思われるほど。
彼は銃を構えて柱の陰に隠れていた。声は少し、震えてる。
彼は技術部第九課勤務の米田ケン。そもそも戦闘員ではないのだ。
マシンガンの弾はもう無い。銃ごと交換しなければいけないのだが、
その余裕が無い。もうハンドガンしか無い。
相手の気配が伺えない。すでに仲間は全滅したようで、
通信機の使えない今では確認のとれようが無い。
しかしさすがにＮＥＲＶの基礎訓練は突破した者。ここで諦めるような者ならば「使徒」にも笑われよう。
左手で銃を持ち、右手には閃光弾がにぎられた。
通称「フラッシュ・バン」。閃光と大きな音で敵戦闘能力を無力化する物である。
手に汗を握るとはこの事だろう。

「ふ！」

気合と閃光弾を放つ。辺りの陰が浮き彫りになり、一瞬人影が見える、
柱を障害物と利用し、一気に後退！拳銃のバースト機能を使い、
牽制をかける。扉まで下がり開けて外に出れば安全だ、通信機で仲間を呼べる。
スパコ。スポンジの打撃音が響いた。ナーフの矢である。

音がしたと思うと部屋の照明が灯り、派手な塗装のされた弓矢のような
武器を持ち構えた男に笑いかけられた。課長の流ヨウイチである。

「今日、おごりな」

その言葉を合図にそれまで部屋の至る所で転がっていた他の男達も起き上がり、
自分の装備点検を始めた。仮装ゴーグルをつけ、彼らは新製品のパレットガンの
モックアップを手にしていた。
今まではシンクロ状態でのシミュレーションが想定されていたのだが、
作戦部の要請で人間サイズ、それも子供の持てる重量の物を作ったのだ。
一番暇な「九課」にこの仕事が行くのも仕方がない近況。
それをいい事に彼らはおもちゃにしてた。
ここはわりかし平和なようだ。

「ええー、またですかぁ？」

。
。
。


一同は朝食を取りに食堂に移動していた。

「で、どうだ？」

ヨウイチがお箸を片手に定食をほおばる。髪の毛を短く切り、逆立てている。結構若い。

「辛いですね、通信断絶状態。なんとか通信方法は欲しいですが、
糸電話位しか思い付きませんよ。」

ケンはカツカレーに食らい付いており、もっぱらそっちに注意がむいていた。

「それじゃ意味ないしな。」

「でも電話の位置が解れば、仲間に通信もできましたよ。」

「ああ、室内回線か。あれ、使って良いとは言ったっけ？」

「別の使うなと言われなかったですから。一応、それで通信は
とれますが、敵に位置を知られる、移動や攻撃回避出来ないの
難点があります。」

「ええっと、それで俺の餌食になったのは何人だ？」

「俺」ノア。名字は泉でもブライトではない。

「自分もです」ユウスケ。名字は浦飯ではない。

「あっ、僕も」カズヤ。名字は葛城。作戦部長とは関係は無い。

「なんだ、ケン以外全員か。じゃ「公衆電話作戦」は断念かな。
なんか改善策があればいいけど無理っぽいな」

「これは通常課か作戦部の領域ですよ。あっちには優秀な人材が在るんだし。
ま、時間さえあれば負けない解決策をつくりますけど？」

「その前にちゃんと行儀良く食べろよ。ほら、碇さんがあっちにいるだろ？」

「あ、ほんとだ。さすが課長。」

「なにが？」

「ちゃんと礼儀をもって「さん」って呼ぶ所。結構常識をもってるんですね。」

「そんな所だけ？」

「いや、一応ほめると後でなんかいい事あるかなって」

「そこで状況把握とか、第六感とかってほめろよ」

「嘘は嫌いです。あっ、伊吹さんと赤木さんだ」

ちょうど食堂に入り、リツコとマヤが席を探していた所、
シンリを見つけその隣に座った。食事を始め、楽しそうな感じがする。
その子供の笑顔が眩しい。
まじまじと観察している中年間近の団体が妙に怪しい。

「左利きか。。」

「えっ？あっ、そうですね。」

「おい、せっかく要請して手に入った身体データなんだから無駄にはできんぞ。」

「後で作り直しますよ。どうせ武装のカスタム化も嘘でしょう。」

「課長に向かってなんて言い草だ。武器は作る。嘘は無い。制服の方はどうだ？」


「あの服ですか。試作品はあがりました。さっすが伊吹さんですよ。センスがいい。」

「試作品って、紫外線シートか。あれだけじゃなんか足りないな」

「同意です。現在追加装備をちょっと練ってます。」

「それなんだっけ？」

「シートの追加機能はカズヤだよね」

ケンは横でお子様ランチにぱくついてるカズヤに聞いた。
背が低く、年齢のわりには若く見えるが、
その誤認の大半がその趣味が成長してない所にある。
一言でガキっぽい。

「うん。現在は防電、防弾と防水は組み込み完了。
放射能に対する機能も考慮してみたけど、通気性に心配があるんで、
作ったけど使わない方がいいね。次は防火かなぁ？」

「エアコンをつけるとか何とかって言っていたよな。」

「耐熱のためにＴＥＣを織り込んだけど、必要電力の関係で、
エアコン格下げしたんだ。体温の調節のために外の熱を中に送ったり、
中の熱を外に放射したりするよ。
帽子は簡単なガスマスクにもなるからそっちもＯＫかな」

「エアバッグは？」課長が聞く

「そっちはユウスケに頼んだ。」

「ユウスケ？］

「ちょっと内蔵は無理ですね。それに衝撃を検知する機能を
つけると少し「服」では無理ですね。「ジャケット」や
「コート」なら内蔵可能で、すでに試作品は出来ましたが、
普段着じゃないですし、日本には冬ありませんからね。」

真面目に答えるユウスケ。典型的な秀才タイプな外見だが、その
口調からは推測の出来ない過激な発想がその頭に込められている。

「そうか。」

「課長って前世紀の漫画読みすぎじゃ在りません？」

ケンが突っ込む。彼もまた同じ漫画を読んでたりする。


やっとこさ食事を終えて部屋に戻りはじめるが、
全員なにか嬉しそうだ。自分の作った物を
使ってくれる子がいるってのは気持ちがいい事だなっと思うヨウイチだった。

制服はマネキンに着付けられ、５０Ｍの射撃場の奥に置かれる。響く連続射撃音。

バラララララ。。。


備品のＭ−１６アサルトライフルから吐き出された弾丸は制服に当たり、
鈍い音を響かせる。最新式からは程遠い武装だがその威力、メンテナンス性、
性能は２０１５年現在でも第一線級である。
おもちゃの弓矢とならべて置くこの男たちの感性をすこし疑いたい。

ヨウイチは端末のコントロールパネルを操作してマネキンを自分の元へと移動させた。
機械音が響き、５０Ｍの距離を数秒かけて移動する。
接近するにつれて、その細部が見える様になる。


着弾した所はゲル状になっており、黒く変色していた。
ライフルの安全装置を稼動させて棚に戻したヨウイチは着弾後を細かく検査しだした。
ゲルの中に弾丸が止められており、すでに固くなっている。
一瞬の液状化でその威力の分散をしている、特殊ベークライトの応用である。

「被害は打撲程度かな？ちょっと続けて着るには目立つが他
に問題は無いようだな。その他の機能はノアか？」

ノアは自分の椅子をくるりと一回転させて課長の方へ向いた。
机のモニターには「お料理タイム」が流れている。

「ああ。対人センサーは電力確保の問題で挫折。
腕時計の機能は最高のものを用意した。脈拍、
体温を記録、ＭＡＧＩに送る。後、携帯端末から
スケジュールを記憶出来るし、ＧＰＳにもなる。もし
装着者が変わればただちに検出する。他にイヤホンをつけると携帯電話、
ラジオ、音楽再生機にもなる。最後に時間も正確だ。」

モニターに向き直るノア。ちょうど「包丁を使うコツ」に入ったので熱心にノートを取り始めている。

「機能の規格は統一されているから外装は自由にかえられる。
追加機能としてはメトロノームや調音も考慮したが、特殊生活用品の
第二次計画の方が現在優先だからまた今度にする。」

視線をモニターから放さないで説明を続ける。カメラに映し出される手際の
良い包丁さばきはＭＡＧＩによって解析、シミュレーションとして細かく再生される。
さらにデータを打ち込み、そのデータを洗練していく。
話の終わりなのか、ノアは小さ目なスポーツタイプの時計をヨウイチに放る。


没頭したノアをあきらめ、ヨウイチは手帳を開き、項目の確認した。


「武装は？」

ケンに向き直り、ヨウイチはノアから腕時計をキャッチ。

「身体データを元に自衛用に拳銃を三丁制作しました。でも本人が
扱えるかどうかは作戦部に聞かないと不明です。無茶にカスタム化しましたから
左手用に作る直す必要が在りますし、使用者認識システムも
まだ作ってません。これは使うと断定したところで機能追加します。」

ガムを口にほうり込み、間を置く。

「プログレッシブ・ナイフの小形はできましたが、
電力確保出来ないんで、十分しか稼動できないですね。
あとはワイヤ・ランチャー、単分子ワイヤーリボンも上がりました。
催涙ガス弾と睡眠ガス弾も設計はしましたが、
多分重量の問題で先送りです。その代わり偶然にも武装開発用の身体データが
在ったんで、特殊生活用品の第二次計画に流用してます。」

「ちゃんと解ってるようだな。後で赤木部長に頼んで生活用品一式を届けてもらえよ？」

「課長、アレもですか。まったくなんのために身体データを手に入れたと思えば、
武装制作。あんな子供に武器を持たせる訳無いじゃないですか。」

「ん？まるで俺がなにか企んでるように聞こえるが？」

「いや、なんでもないです。」


会話に間が空く。

「課長もキザですね。」

「粋なおじさんと呼んでくれ。」

「そうですか。」

その後、その性能と機能の詳細規格書を見たリツコは「へ？」とらしく無い声をだし、
その説明書にため息を付いた。葛城作戦部長は笑い、太鼓判を押したが
結局拳銃使用許可は出なかった。その専用拳銃の仕様書に「却下」と記された時に
第九課課長の顔に不思議と笑顔が在った。

こうして「ＮＥＲＶ Ｑ課 制作 特殊制服」はマヤとシンリの手にわたった。

全部で１００ページはありそうな説明書に二人とも苦笑しちゃった。
なんでも、技術部の人達が趣味に走った結果らしい。

特殊機能がないのはリボンだけ。
ほんとは単分子ワイヤーを仕込むなんて話もあったみたい。

・・・特殊部隊用とか言っても誰も異論はないと思う。

上着があるおかげで色々なものを持ち歩ける。
・・・だからって、いろんな物を持たせすぎな気もする。
誰の趣味なのかな。


蛇足だが、葛城作戦部長宅に「Ｑ印」の左利き用はさみ、缶切り、栓抜き、包丁、しゃもじ、などの一式送られていた。
。
。
。
ＡＴフィールド突破可能。。ではないはず。

ＩＳ本編を読んでいて、その背後にある大人のお話を書きたいと
思いましたが、マヤ、マコト、シゲル達はもう仕事がある。
そこで技術部の暗躍を書く事に。
お笑い、そしてドライなユーモアをめざしましたが、いかがえしょうか？
元ネタを暴露しますけど、「Ｑ］の名は某有名サイトとは関係が在りません。
００７・ジェームズボンドでの老人スーパー技術者さんですね。
そして最初に出る「ナーフ」の矢は実際のおもちゃです。
「Ｎｅｒｆ」と「Ｎｅｒｖ」でスペルが似ているので、ちょっとしたジョークでした。
長いですけど、IS本編二話と一緒と読むとさらにたのしめますよ？

エヴァＩＳの外伝を戴けるなんて、執筆当初は夢にも
思いませんでした。感謝、感謝なのでっす。

ＮＥＲＶという場を得て生き生きと暴走する大人達♪
人類生存、という大義名分をＧＥＴした彼らを止められるモノは
もはや何もない〜、って感じでしょーか。（＾＾）
これからも彼らにはぜひ、頑張って欲しいですね。

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