裏第０４話「知られない心遣い」

ＮＥＲＶ本部
技術部 第九課
別称「特殊技術創作課」
自称「Ｑ」
通称「ヲタク課」

構成員は課長である流ヨウイチを始め米田ケン、葛城カズヤ、飯島ユウスケ、渡辺ノアの
五人とも多彩な技能を持つ。それゆえに人手の足りない時には駆り出される。
今日もまたそうだった。

急遽、仮設された巨大なプレハブの中にシャムシエルの巨体が
横たわっている。その中に野戦用の戦闘指揮車が設置され、
技術部が陣取っていた。

その中で第九課の面々は異常な切味を見せた鞭（触手）の根元を慎重に切開していた。
目的はその発生器官の摘出とその性能分析である。
しかし使徒のその表皮もまた固く、簡単に切られてはくれなかった。
その作業を簡略化するために第九課は大型レーザーメスを開発・運用していた。


なにしろ、エヴァと比較しても遜色の無い大きさである。理想的にその巨大な骸を
巨大な医学者が検査をすれば良い。だがそれは妄想にしても馬鹿馬鹿しい。
そこで第九課は人間サイズで運用可能な大型レーザーメスの形を摸索した。


その終着点の外観はと言うと直立式の掃除機である。
その外殻を流用しているのだから当たり前な事だ。乱暴にその外殻の
メーカ名は荷造りテープで隠され、「ＮＥＲＶ」とサインペンで記される始末。
手書きのＮＥＲＶロゴマークがちょっといびつになってしまってる。

ＮＥＲＶの予算を使用して制作されている物だからその規格は報告しなければならない。
その報告書には細やかと解説が記されており、その性能はさすがと言った所。

外部電源供給型で、通称「あんびりかる・こーど」を接続して使う。
内蔵電源で電源ケーブル断線状態でも三分間の行動可能、
そしてその起動率が１００％。別称「オーツーシステム」

どこまで本気なのか。。

その大きな体の上をただ単にお掃除気分で歩くだけで切開が出来ると使用していたが、
赤木技術部長からは溜息が漏れるだけであった。

切開。摘出。その内部構造のデータ保存。高品質のデジタルカメラを使い、
過剰とも言えるほどにその映像を記録する。その画像に高画質を追求した結果
諜報部でも使用されているデジタルカメラ使い、細かい記録をとる。
性能は最高だがその分馴れを要求する器材であり、使い勝手は最低だった。
その繰り返しは疲れる。

「おい、ケン。ウチで制作したカメラ使っちゃ駄目なのかよ？」

ノアはその撮影の繰り返しでストレスが溜まって諜報部の
デジカメにうんざりのようでケンも似た心境だ。ややこしいその機能群を使えば
その設計者を恨みたくもなろう。


「課長命令で使用禁止中。頼むから聞かないで。課長の気障病なんだから」

「何が気障だよ。まったくあのタヌキ課長が。。」

「俺に言うなって。」


パシャ

フラッシュが焚かれて、写真をもう一枚取られる。仕事は続く。





「課長。」

「ん？なんだ？」

「切開完了しましたよ。摘出作業に入りますか？」

「いや、やめとく。」

「そうですか。ちょっと休憩をとりますかぁ。」

「全員に伝えろよ。摘出は以後課長命令が在るまで開始するなとな。」


最後にヨウイチは意味ありげに耳を指でこする。ケンは笑顔を自分の顔から消し、敬礼を返した。

「ハッ！了解です！」

どうしても「軍人の真似」にしか見えない。元々軍隊ではないＮＥＲＶでも
どうも第九課は根本性質が違うようだ。どうしても彼らの「真剣」はずれている。
表情が崩れ、「悪戯小僧」の一言の似合う笑顔を浮かべ、ケンは同じく耳を指でこすった。
作戦開始である。


第九課の他の男たちに一通りの通達を終えたケンは他の三人を連れて触手付近まで戻ったが、
課長が居ない。ヨウイチを求めて視線が漂い、その足元から声が聞こえるので覗いて見る。
地上にある戦闘指揮車からヨウイチの声が聞こえ、そちらの方向かった。

「赤木博士、コア摘出作業ならびに腕部光鞭発生器官の検査作業は
３０時間後に完了します。」

ちょうどヨウイチが作業報告をしていた。頭だけを覗かせ中にいる課長を見る。
一瞬課長は視線を外に向け、目配せをし、耳を指でこする。
ケン、カズヤ、ユウスケとノアの四人はニヤリと笑い、続きを待つ。
リツコは返事を返し、他の仕事に戻ろうとしたが、ヨウイチに問い掛けられる。

「少しお休みになられたほうがいいのではありませんか。
・・・見舞いに行かれるのでしょう？」

笑顔を浮かべ、ヨウイチは奥の手である「チルドレン」の話を持ち出した。
策士なのかもしれない。先ほどの検査作業の予定時間も正確だが、
ここから先は赤木博士が絶対必要ではない。できるだけ作業の単調さを
アピールした報告であり、その存在は他の場所で最も有用で在る事を強調。
リツコの現実主義、並びに効率論をくすぐる報告と一言であった。

これも策略の内。天才は「なんでも出来る」しかしそれは「他に任せない」
と言う欠点もある。確かに使徒は大変興味深く、その解剖と
検死をするＮＥＲＶはその権利を独占した状態だ。
世界中の科学者、医学者、生物学者、物理学者が
その骸に興味を持ち、リツコの立場を欲しがるだろう。

それほど特異な存在であるのだ、「使徒」は。


そして、これをよしとしない輩は大勢いる。この第九課もその大勢の一員である。
但し、その理由がすこし他とは違った。


自分たちよりも長く起きているはずなのだ、かの技術部長は。
心配しているのは自分達だけでは無いはず。そしてその存在を必要とする子供がいるのだ。
そのために我らの技術部長も自分たちの罠に落ちてもらわなければ困る。

「ここは私達だけで大丈夫ですから。」

他の技術部員もそれぞれ話し掛ける。彼女らも赤木博士の心配を
しているようだ。しかし彼女も今はヨウイチの駒。リツコの中で
「仕事」を「シンリ」で揺らがし、安心感を補強する
手伝いをしてもらって居る。ヨウイチの作戦は着実に進んでいた。


そこでヨウイチは事態を収束へと向かわせる。

「シンリちゃんに俺達も心配してたって伝えてください。」

これはリツコは乗るか、乗らないかの瀬戸際！心境はギャンブラー。

「・・・そうね・・・悪いけど休ませてもらうわ。なにか・・・」
「緊急事態のときはいつものように携帯端末に連絡を入れます。」

リツコの台詞の最後を奪い、勝利宣言をするヨウイチ。
これで赤木博士は現場から離れる事を余儀なくされた。
恐らく心の中でガッツポーズを取っているヨウイチは笑顔を
崩さずに次の言葉を待ち構えた。

これを見守るカズヤ、ケン、ユウスケ、ノアはそれぞれ
「さっすが課長」
「悪人の要素大有り」
「あーあ残業決定」
「喉が乾いたな」
と頭の中では勝手な事を考えている。

「・・・後はよろしく。・・・あなた達も無理はしないでね。」

　リツコは軽く微笑むと戦闘指揮車から出て行った。
それを見届けるとヨウイチは第九課の四人と顔を合わせた。
ニヤリと同じ笑顔が伝染した所で掛け声を上げた。

「よーし、みんな、あともうひとがんばりだ、がんばっていこう。」
「「「おぉー！」」」

作戦成功。早速小声で会議を始める。作戦指揮車の中でいきなりしゃがみ込み、
小声で企む中年間近な男達。周りの技術部員はなるべく無視する。
なんせ、第九課だ。異常な行動は見慣れている。

「摘出は三時間で終わらせる。三課の課長と話つけて来たからその後
十時間でその検査作業を終わらせる。そこで夜食をして、
朝までには本部にデータと必要標本を送れ。」

「了解」

技術部のトップは確かにリツコだが、彼女に倒られたらＮＥＲＶ
どころか世界の危機かも知れない。その上、そんな事が起きたら、
技術部の面々も申し訳が立たない。作業は急ピッチで続けられた。




そしてその深夜。予定より早く摘出とその分析は終了している。
心配されていたリツコの再来は無く、予備作戦一号と二号は使われる事無く終わった。
一段落がついて、次はコアの摘出を残す所。使徒の体組織の
中でも一目を置く存在でその扱いには細心の注意を払うよう技術部は心がけていた。

使徒の体は時間が経つにつれて物質の構成力が
失われて行くので一時も暇は無い。しかし、不眠不休で
働く人間は本人とその仕事を劣化させる。
その中で第九課は交代をし、一時の休息を楽しんでいた。

「あれ？ノアなにしてんの？」

シャムシエルの「目」っぽい斑点の上で携帯端末を広げて何か作業しているノア
を発見したケンとカズヤ。興味深々で近づいた。

「ああ、お前らか。ちょっと自分のサイトの更新だ。」

「何載せているの？」

カズヤが覗き込む。「漫画ぁ？」

「そうだ。前世紀の奴。良く課長とケンも読むだろ？
俺はここで紹介と掲載している。」

「それって違法じゃ？」

ケンがすこし睨む。しかし迫力が二桁ほど足りない。「あ。これまだ読んでない。」

「作者はすでに死亡。著作権の保有していた発行者もすでにあらず。
腐るよりも次世代に楽しんでもらう。理想論かも知れないが、
お前の様なアホウに文句を言われる筋合いは無い。」

口の悪さは馴れ。ノアと接すると色々と彼の行動によって心情を理解出来る。
その口の悪さは信用を出来る者に対して発動するんだと。

「へぇ。ノアらしくない言葉だな。
あっ、後でその吸血鬼の奴転送してくれない？」

「勝手に自分でダウンロードしろ。そのためにサイトで公開しているんだぞ？
まったくそれくらい理解しろよ馬鹿が。」

ふいに言葉が途切れる。

「どうしたの？」とカズヤが不思議そうに聞く。


「疲れた。てめえらにこれ以上エネルギー使うのは無駄だ。今晩はこの上で寝る。」

ごろりと転がるとノアからは寝息がすぐに漏れ出した。本当に疲れているのだろう。

「げぇ、嘘でしょ」カズヤが嫌そうな顔をするはいいが、
転送の終了した端末を奪い、漫画を読みはじめた。
ケンもその端末の画面を横から覗き込み、読む。その内睡魔に勝てず、
うとうとする。男三人は仲良く使徒の亡骸の上で爆睡するのであった。

その光景を課長にデジカメのテストついでに撮影された三人は、
後日証拠隠滅のために三人で同盟を組み課長の端末にクラッキングを
仕掛ける事になる。成功したかは定かではない。

そのデジカメは作戦部要請の品であり、葛城作戦部長がシンリとレイに渡す物だったらしい。
諜報部のカメラを改造した物で、解析性能を削らずに軽量化、小型化、
そして使いやすさをチューニングした結果、市販の物を遥かに
凌ぐ作品となった。ペアで制作されたそれは使用者の手にすんなり馴染んだろう。
密かな機能も多少付いているが使徒調査で時間が無く、機能追加案の八割を
実現出来なかったユウスケが悔しがっていたりする。

第九課課長はそのペアを大事に保管してあり、使徒検査の仕事が
終わり次第ミサトに渡す手筈だった。その取り引きでカメラの代償次の通り。

その一、 そのカメラで写す最初の映像がその所有者たちである事。
そのニ、 その映像は笑顔の葛城作戦部長を含む事。
その三、 最後にそのデータを一枚第九課に飾らせてもらう事。


しかし、ペアのカメラはまだ子供達の手にわたっていない。


　がん

　・・・鈍い音が響く。


ＮＥＲＶ技術部第九課の仕事は始まったばかり。

ＩＳ本編第四話と読むと楽しさ倍増？
うーん書きやすい。ちょっとずるいですが、ＩＳ本編の第四話の裏バージョンでした。
ネタの出所はまずＩＳ本編の第四話Ｃパート。会話はそのままパクリですが、
その場にいる「技術者大勢」にすこし個性を持たせたいと思い、
第九課の面々にさせてもらいました。
漫画は第四話Ｆパートで子供の話題に出てくる吸血鬼のおはなし。

ネタの紹介。今回の「耳をこする」行動は１９７３年の映画
「ザ・スティング」（Ｔｈｅ Ｓｔｉｎｇ）で詐欺師が行動を始める時の
合図が「鼻の横をこする」だったんですね。ちょっとしたオマージュでした

管理人さんの文章があっての裏バージョン。ＹＯＫＯ様様です。

リツコさんご休憩への移動の際にこーんな策略が踊っていたなんて♪
おもわずニマ〜、と笑いながら楽しませて戴きました。
タヌキな課長さん、いい雰囲気ですよね〜。やっぱり上司はこうでなくちゃ。
　　※上司がみんなこんな人だとそれはそれで大変かも。（笑）

シンリとレイのデジカメがペアの特注品、というのは素敵ですね。

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