ガタン……ガタン……ガタン……
電車の中、揺れる景色、窓から入ってくる紅に背を向け、揺れる自分の影を、
ただ、静かに見つめる時間。
フランスの日本語学校に在学していた天田シローは、ある日、校長室に呼び出された。
『天田シロー君だね？』
そこには、校長と、もう一人知らない男が立っていた。
スーツ姿で、整った髪形に、メガネをかけている。
一見するとサラリーマン風だが、そうでないという事が身にまとっている独特の
雰囲気でシローにも容易にわかった。
『は……あ、はい、そうですけど……』
後ずさりしながら答える。
何かイヤな予感だ。本来彼は、予感を信じたりせず、現に当たった事もなかったが、
今度は当たりそうな気がする
『私はネルフ･フランス支部総合指揮監督のアデル=クランツ一尉だ。』
さっそくに、予感は的中したといっていいだろう。
電車から、空気の抜けるような音のした後にドアが開き、見慣れたホームに足をつける。
そこには、見慣れた顔がいつものようにあった。
「よう」
愛名リン。シローの幼馴染にして同居人でもある。
「あ、今日は早かったのね。」
ショートヘアーに、大きなつり目、服装はシローと同じ学校の制服を着ている。
そして、シローと同じ日本人の肌は、ここではいささか目立つ存在か……
彼女は、それでも、毎日ここでシローを待っている。
「毎日、毎日、別に無理してこなくていいんだぜ。」
「うん……大丈夫だよ。そんなに待ってないから。」
毎日の事だが、こうも見え透いた嘘で気を使われると、こちらも胸が痛い。
「んなわけないだろう……制服のまんまで、学校は３時には終わるんだ。今はもう５時だぜ。」
シローは言った。
しかし、もしかしたら、買い物の帰りかもしれない。学校の帰りが遅くなり、
たまたまここへ来ただけかもしれない。
都合のいい考え方はいくらでもあった。だが、そうゆうことが考えられないのが、シローだった。
本人にとっては短所であり、他人にとっては美徳……
まったく、損な性格だ思う。
そんなことを思いながら、リンは、明日もシローを待つのだろう。
駅を出て、自分の影を追うように歩きながら、シローはリンの顔をみた。
シローがエヴァに乗る事に一番反対したのは彼女だった。
『あたしは、絶対反対よ。』
リンはそう叫び、テーブルを強くたたいた。
そこはリンの家のリビング。テーブルには、リンとその父親、そして、シローが座っている。
『え？なんでだよ？』
シローが聞き返す。
まあ、理由はわからないでもないが。
『だって……なんかヤバそうじゃない。』
（まあ、そんなトコだろうな）
『エヴァといえば、日本でシ徒と戦っている、あのロボットの事だよね？』
『あ、はい、ユウジさん。』
愛菜ユウジは、フーンと言うと少し興味ありげな顔をした。
『まあ、楽しそうな話ではあるね。』
『お父さん！』
リンが非難の声をあげる。
ユウジは、渋めの顔についたひげを触ると、少し笑いながら
『いや、すまん、すまん。父さん、昔そういうのに乗るのに憧れててな……』
そして、一息つき
『まあ、しかしだ、リンの言うこともわかる……なあ、シロー君、その……
エヴァに乗る理由とかがあるなら、教えてくれないか？』
『え？』
そう言われ、シローは少し考えた。
実際、本当の理由は少し言いずらい。まあ、どうせ、すぐにばれてしまう事なのだが。
しかし、それなら、それで、ばれるまで黙っておきたいとも思う……
（さて……どうするかな……）
しばらくして、やはり、本当の事を言うべきだろうと思い、シローは、口を開いた。
『まあ、つまりだ……エヴァに乗れば、親父の借金とオレの生活費……
そいつのめんどう見てくれるって言うんだ。』
『え？』
リンとユウジは、聞き返した。
『親父の借金のせいで、この家売りに出しちまうかもしれないって話、この間、聞いちまって……』
シローがそう言うと、その場はそのまま押し黙ってしまった。
「ごめんね」
一緒に歩いていたリンが不意にそう言った。
あまりに突然で、不可解だったので、シローは間の抜けた声で聞き返した。
「ん？いや、エヴァのことだよ。」
シローから目を離さない。
「あたしが言うのも変だけどさ、シローのお父さんの借金なんて、シローが
気にしなくてもいいんだよ。」
「そういかないだろ……」
シローは、あえてリンを見ないように、まっすぐ向いて歩く。
「ううん、だってもうシローはあたし達の家族だったんだし、そういうの、
一蓮托生って言うのかな……そんなもんだと思わない？」
「なんだそりゃ？」
「だからさ、家売ってでもさ、シローとは、家族でいたいと思えると思うよ。絶対……」
シローは、まっすぐ向いて歩く。
「それでも、オレは、エヴァに乗るよ。」
そう言われ、リンは下を向き
「そっか……」
リンの目には、揺れる影が会った。
トボトボと揺れる影が……
ネルフ・フランス支部、その司令室に、部屋の長であるトニヤ=ミル司令と、
もうひとり、アデルがその前に立っていた。
「フィフス・チルドレンのシンクロ率は、実践投入レベルにまで上がりました。
明日より、本格的な実践訓練を始めたいと思うのですが……」
その言葉に、トニヤは満足そうにうなずき
「そうですか、解りました許可します。」
「もう少しですね……」
その言葉に、トニヤは何も言わない。
ただ、インテリ然とした自分のメガネのふちをなぞっている。
「我々は、いわば、イレギュラーなのでしょうね。」
その言葉に、トニヤの視線がアデルの方へ向く。
「いえ、失言でした……失礼します。」
そう言いアデルは部屋を出ようとすると、
「フィフスが誰になるか。それが決まるまでが勝負になるわ。私達にとってのね……」
司令官室のドアが閉まった。
風呂上がりタオルで髪を拭きながら、留守電を聞いていない事を思い出し、聞いてみる。
発信音の後に、用件が入っていないことを事務的に告げられる。
まあそんなもんか、と思い、少し早めに床に就いた。
ネルフに入ってから、シローは個人寮をあてられた。
比較的早く部屋には慣れてが、どうも眠る事になれていない。
それでも、何とか眠ろうと目をつむる。
『ほら、これが君の新しい家だよ。』
手をつないでくれている知らない男の人が、家の玄関の前でそう言った。
しかし、泣きべそをかいているその目で、何を見ろというのか。
玄関の前には、一人の女の子が立っている。
年のころは同じだろうか……心配そうにこっちを見ている。
その家に、すむ事になっても、シローは泣き続けた。
そのたびに、いつもいつも、手をつないでくれたおじさんと、その家に
住んでいる女の子が心配そうに手を差し伸べてきた。
しかし、その手につかまろうとはしなかった。
本当に手を差し伸べてほしい人がいたから……
今、他の人の手につかまったら、差し伸べてもらえなくなりそうだったから……
しかし、差し伸べてほしい手は、もうないことに気付く。
泣く事もしなくなった。
意味のないことだから……
それは、そこで寝ることになれた頃の出来事だった。
（何、思い出してんだ？オレ……）
そう思い目を開ける。
目を開けても、辺りは真っ暗だったが、夜目が効きはじめた頃、初めて気がついた。
視線の先の天井が、にじんで見えていた事に……
新たに始まった、ネルフでの実践訓練
それは、シローに何を与えるのか……
次回『見えるココロ 見えないカタチ』
次回も fair des gentillisses aupres de
【あとがき】
なっげー！後半なっげー！
あ、どうも、大人です。
第一話後半、読んでいただき誠にありがとうございます。
後半、長かった……エヴァ出ないし……辛かった。
第一話後半にして、すでに限界か？
いえいえ、これからですよ。そうですよ。
次回は、いよいよ、エヴァ四号機登場。
書いてるこっちも面白くなってきましたっての（笑）
大人
シンリ 「なぜ、エヴァに関係する人達って家庭に恵まれないの？」
ＹＯＫＯ「恵まれないわけじゃないが、エヴァが関わると不幸になる
傾向が強いな。」
シンリ 「でも、悲しい過去は振りきって楽しい未来を目指すって
ことにすればいいと思う。」
YOKO 「で、そういう雰囲気が少しでもあったかい？」
シンリ 「次のお話を読むまでわかんない、ってことにしたい。」
YOKO 「エヴァ四号機、一筋縄ではいきそうもないから、
今後の展開が楽しみだろ？」
シンリ 「今後の展開に期待してまーす、大人さん。」