「シロー、朝だよ。シロー……」
ドアをたたく音と、リンの声が響く。
（朝……か……）
シローは朝が好きだった。
別に、新たな一日の始まりとか、そう言った前向きな意味ではない、ただ、夜が、
というか、寝るのが嫌いだったというだけなのだが……
シローは、寝るのが嫌いだった。
何も見る事が出来ない事、かわりに夢を見てしまう事、そういったことがすべて嫌いだった。
そして、寝る前、次の朝を待ち遠しいと思っているうちに、自分は朝が好きなのでは、
と思えるようになっていたのだ。
まだ、ドアをたたく音が聞こえる。とうぜん、リンの声もだ。
「もう起きた。」
頭を描きながら体を起こし、叫ぶ。
そして、のろのろと立ち上がると、部屋に転がっていた制服に袖をとおす。
もう、リンの声も聞こえない。
着替え終わり、何気なく時計に目をやる。
時間は……食事を取る暇がないというわけではないか……
「ワリ、メシ食ってもいいか？」
部屋の玄関へ行き、リンにそう訊ねる。
「うん、いいけど……取りあえず、入れてくんない？」
シローは、「ああ。」と答えると、部屋のかぎを開けた。
「お邪魔しまーす。」
リンと共に、台所へ向かう。
「また、コンビニのおにぎりなの？」
ビニールの袋を、ガサガサあさっていると、リンが抗議の声をあげた。
シローは、一度手を止め
「あ？ああ、朝は、パンだと調子出ないしな。」
「そうじゃなくて、自炊しなよって事。」
「あ、そういうことね……」
そう言うと、またビニールの中をあさり始める。
「一人暮らしになったんだし、うまく出来ないのは解るけどさ。」
おにぎりを、ビニールからはがし、ぱりぱり音をさせながら食べ始める。
「健康のためにもやったほうがいいよ……っていうか、ねえ、聞いてるの？」
その言葉に、シローは食べるのを中断し、
「ああ、聞いてるよ。」
そして、また、食べ始める。
「そう、で、自炊する気は？」
「ない。」
おにぎりをほうばりながらだったので、やや聞き取りずらかったが、そう言ったのだろう。
「なんでよ？」
口の中が、空になるのを待ってから、シローは答えた。
「だってさぁ……だって、自分ひとりだけで食うために、自分ひとりが作るのって、
結構辛いんだよな。なんでか解んないけど……」
「フーン……」
「さて……と、そろそろ行くか？」
「え？朝ご飯はもういいの？」
リンはそう言った後に、袋の中にあったおにぎりが空になっている事に気がついた。
外に出ると、シローは大きく背伸びをした。
リンは時計を気にしている。
「ちょっと急いだほうがいいかも……」
言われてシローも時計を見る。
たしかに、間に合わない時間ではないが、まあ、ギリギリではある。
「ま、だいじょうぶだろ。」
そう言い、シローは歩き始めた。リンもそれについていく。
そのはるか上空を、飛行機が飛んで行っていた。
ネルフ・フランス支部、司令室。
「本日付で、エヴァ、七号機、ならびに八号機が、こちらに到着いたします。」
トニヤに向けてアデルが言った。
「ええ、そういう話でしたね。」
「つきましては、それをフィフスの実践訓練と並行して使いたいのですが……」
その言葉に、トニヤは何かを察したのか、小さく笑い、言う。
「いいでしょう。許可します。」
「ありがとうございます。失礼します。」
キーン コーン カーン コーン
鐘の音。
ホームルームが終わり、一時間目までの短い時間を有意義に使おうと、
生徒はそれぞれ椅子を蹴り、散らばっていった。
「おい、今朝、見たかよ？」
シローの机の前にも、そういった生徒が集まってくる。彼にとってはもうおなじみの顔だ。
「見たって、何を？」
背が低く、今ひとつ目立たない勝ナオユキ。特徴としては、底のずいぶん
厚いめがねをかけていることか、その男が聞き返す。
「軍用機だよ。軍用機。しかも、それが三機もいっぺんにだぜ。」
答えたのは、松永シンヤ。責任感が強い、クラスでも比較的リーダー格の存在だ。
そのシンヤが、自慢の長髪を掻き分けながらしゃべっている。
「しかもよ、ただの戦闘機なら驚かねーけど、なんと、その三機ってのが三機とも
でっけー輸送艇なんだよ。さすがに迫力だったー。」
と、息する暇も忘れたか、というほど喋っている。よほど興奮していたのだろう。
「軍用の輸送機って、ネルフかな？」
と、ナオユキ。
「さあな……」
応えて、シロー。
「やっぱ、ネルフだろ。なんかやばい兵器とか作ってんじゃないの？」
これは、シンヤ。
シローは、リンとユウジ以外に、自分がエヴァに乗っている事を話してない。
特に話す理由もなかったが、それ以上に、ネルフから厳重に禁止されていた。
だから、シローはあまり、ネルフの話をしたくはない。
仲間をだましているような罪悪感が、優越感よりも先にきてしまう。
しかし、そんなこと勿論言えるはずなく、
「そうそう、軍隊の癖に、シ徒が現れるまで極秘の機関だったしな？
絶対なんかやばい事やってるって。」
さらになにやら言っているが、シローはあえて会話には参加しなかった。
黙って、何気なく会話を聞いている。
シローにとって、そこは、ただ、ただ、孤独ではないというだけの場所に思えていった。
「なあ、本日付でエヴァの量産機、二機もくるらしいな。」
ネルフ作戦室、特に仕事もないケリーとニナが暇そうに話をしていると、
なにげなく、キースが話を持ちかけた。
「うん、みたいね。」
キースは、長いため息を一つつき
「まったく、給料は変わんねークセに、仕事ばかり増えやがる。」
ニナは、クスクスと笑いながら。
「いいじゃないですか。お給料、十二分に出てると思いますけど。
それに、人員の補給もあるって話ですし。」
そう言っているニナを、キースはじろりと睨み、
「お前、そう言うけどな、今回運ばれてくるのは、量産機だけじゃねーんだぜ。」
「え？」
「Ｎ２兵器。」
キースが低い声で言う。
「ドイツ支部で、暴発した残りを使って、うちがそいつの原因を調べるらしいぜ。」
ニナは声を失った。
「あの事件、俺達にっとって忘れちゃ何ねー事件だぜ。どれだけインドアで、
コンピューターいじってるとしても、オレ達は、体張ってる軍人なんだって事をよ……」
その後、沈黙はいつまでも続いた。
『シロー、聞こえるか』
エントリープラグの中、アデルの声が聞こえる。
モニターを見る限り、どうやらビル街に立っているようだ。テレビで見た事がある。
たしか、新東京だ。
「はい」
『いいか、今日から本格的な戦闘訓練に入る。といっても特殊な操作は一切ない。
お前が思えば、思った事を、エヴァが行ってくれる。』
「はい」
『よし、はじめろ。』
「はい」
エヴァ四号機は、手にもっていた剣を構えた。
ついに始まった戦闘訓練。過去の情報に困惑するシロー。
そして、三体のエヴァが動き出す。
次回『見えるココロ 見えないカタチ』 後編
次回も fair des gentillisses aupres de
【あとがき】
うーん……今回エヴァ出すつもりが、気がつけば終わっている……
どうも、大人です。
前回、長い長いとほざいておきながら、結局、今回もおんなじ位の長さ。
しかも、エヴァ出てないし……
しかーし、次回こそ、巻頭カラー（？）で、そっこーエヴァが出るぞ。
楽しみにしといてね＾−＾
大人
シンリ 「リンちゃんとシローくん、いい感じですね〜。」
ＹＯＫＯ「ごく普通の幼馴染か、兄妹って感じだね。」
シンリ 「そういうのって憧れちゃうでしょう？
こういう日常って大事ですよ、やっぱり。」
ＹＯＫＯ「友人に語ることができない後ろめたさを抱えた
シロー。しかし、事態は彼の思惑とは関係なく
動いていく。
エヴァ量産機・・・どうなるのかわからないけど、
波乱は避けられないな。」
シンリ 「量産機・・・。ウナギ顔は好きじゃない。」
ＹＯＫＯ「ま、好き嫌いは誰でもあるから仕方なし、と。」
シンリ 「量産機、四号機、そしてＮ２兵器。
いったい何をすると思います？」
ＹＯＫＯ「さて・・・やりたいけど被害を考えると躊躇するのが
エヴァに対するＮ２兵器の効果テストだろうね。」
シンリ 「どうして、エヴァにＮ２兵器を使うんです？
意味がないですよ。 使徒はＮ２兵器なんて
使わないんだから。」
ＹＯＫＯ「だから、人間の敵は人間って奴ことさ。（ニヤリ）」
シンリ 「その笑い方、辞めたほうがいいですよ。」