ガラスの向こうの病室。そこには母がいる。
「アスカちゃん、好き嫌い言っちゃダメよ」
母親の優しい声。しかしその声をかけている相手は、古い人形だった。
本来、「アスカ」と呼ばれるべき少女は、ガラスのこちらから感情を消した表情で母親を見つめている。
周りの大人達のうわさ話。その内容を完全には理解できなくても、子供らしい敏感さで、そこに含まれる意味を察してしまう。
握りこぶしが震えた。
（ママっ、ママっ、アタシを見てっ！）

「碇カスミの戦い」外伝弐　夢の終わり
　　　　　　　　　　　　　　　　　作・スニフ


たまらず少女は病室の中へ駆け出した。
「ママっ！」
振り向く母親。彼女はアスカを認めると、穏やかな笑顔になった。
「ママっ！」
少女の歓喜の表情。しかしそれは、すぐに驚愕へと変わった。
「アスカちゃん、ママと一緒に死んでちょうだい」
自分の首を絞める母親に、絶望的な表情を向けるアスカ。やがて、苦しみのあまりもがき出す。

（ママっ、やめて！　アタシを殺さないでっ！！）

「はっ」
目を醒ますと、間近に誰かの顔があった。
「きゃあああぁぁぁっ！！」
「きゃん」
目覚めていきなり叫んだアスカに、カスミは驚いて尻餅をついてしまった。
「なんだカスミか・・・、って、アンタっ！！　何でここにいんのよっ！？」
「惣流さんがうなされてたから、心配で見に来たの」
お尻をさすりながら立ち上がるカスミ。なるほど、彼女の顔には心配の２文字が貼り付いていた。ぐっ、と言葉を詰まらせるアスカ。
「大丈夫？　うめき声、台所まで聞こえたよ」
「平気よ。・・・ちょっとイヤな夢、見ちゃっただけだから・・・」
心配顔のカスミであったが、アスカの様子に、それ以上詮索するのをやめた。
「じゃ、起きてきてね。すぐご飯できるから」
そう言い残すと、エプロン姿のカスミはふすまの向こうへ消えた。
「ふぅ・・・」
溜め息が漏れる。アスカはまだ肩で息をしていた。まだ心臓が早鐘のように鳴っている。不快な寝汗のせいで、パジャマや髪の毛が、べっとりと肌に貼り付いてるのがわかった。
「・・・またこの夢なの？　いい加減にしてよっ」
忌々しげに毒づくアスカ。しかしその声は、さっきの悪夢のせいで明らかに弱々しかった。

ペンペンと一緒に朝食をとり始める２人。アスカはさっき、朝のシャワーを浴びてきたばかりのため、髪の毛がまだ湿っていた。
「ミサトは？」
「まだ寝てるよ、きっと。夕べ遅かったみたいだモン」
「ふぅん」
「・・・なんか、元気ないね。大丈夫？」
「ああ、あの日なのよ。アンタも女なんだから、そんくらい察してよね」
「ごっ、ゴメンね。・・・私、まだだから・・・」
思わず、げっ、となるアスカ。
「アンタ、ホントにガキだったんだ」
「むぅ」
カスミの頬が膨らむのを見て、アスカは少し機嫌を直していた。

朝食の後片づけが終わっても、まだ台所にいるカスミ。
「カスミ、アンタ、何やってんのよ？」
「ミサトさんにサンドイッチ作ってるの」
「アンタ馬鹿ぁ？　アイツがそんなの食うわけないじゃん。どうせ起き抜けにビール一気飲みしておしまいよ」
「そんなぁ。ちゃんと朝御飯は食べた方がいいって、テレビで言ってたモン。ミサトさんだって、作ってあればちゃんと食べるよ」
「はんっ、どーだか」
「アスカちゃん、そんなこと言うのね。お姉さん哀しいわぁ」
いきなり２人の会話に加わったのは、起きだしてきたミサトであった。寝癖は付いたまま。タンクトップをめくり上げて臍の辺りを掻いてる姿は、まさにずぼらな女性の鑑と言っていいだろう。
「おはようございます、ミサトさん」
「グーテン・モルゲン」
「おはよ、２人とも」
「サンドイッチ作ったんですけど、食べますよね？」
「もっちろん。やっぱりスミちゃんは優しいわねぇ〜」
「じゃ、コーヒー入れますね」
「ああ、いいわ、スミちゃん。それよりビールお願い」
「はい？」

サンドイッチ片手に缶ビールを一気飲みして「くわぁぁぁ〜〜」とか言ってるミサトを横目に、アスカはカスミに「ほらね」と言う視線を向けた。小さく嘆息するカスミ。
「２人とも今日はシンクロ・テストでしょ？　私の車に乗ﾁてく？」
「はい、実はそのつもりだったんです。・・・でも、どうしようかなぁ・・・」
ミサトの手にしている缶ビールをジト目で睨むカスミ。
「ミサト、今日こそは安全運転してよっ」
「わぁーてるってば！」


衣ずれの音を響かせ、レイが壱中の制服を着ていた。今日は休日なので、普段なら私服に着替えるところだが、シンクロ・テストのためにＮＥＲＶへ行くので、制服を着ているのだ。
リボンを結び終わったレイは、小さめのチェストに歩み寄り、そこに置いてあるブローチを手にした。
銀色の台に深い碧色をした石がはめてある、シンプルなデザインのブローチ。それはカスミからもらったものだった。レイの服を２人で買いに行ったとき、カスミがレイにプレゼントしたのだ。
レイはブローチを眺めながら、嬉しそうに微笑んだ。出掛ける前にこのブローチを眺めるのが、レイの日課となっていた。
本来ならこのチェストの上には、壊れたメガネが置かれる予定であった。しかしゲンドウとの絆を感じられなくなってしまったレイは、零号機の事故の怪我が治って退院するときに、ゲンドウからもらったメガネを病院に置いてきてしまったのだ。

詳しく言えば、ゲンドウがレイを誰かの身代わりにしたことが、レイのゲンドウ離れの原因ではない。レイはそれでも自分の立場に満足できただろう。
零号機の起動実験で、自分の魂の欠片と出逢い、自分の価値、自分の存在理由を知ったからである。さらにゲンドウは、レイの無事を喜んで微笑みさえ浮かべたのだ。
自分の価値を失うことを怖れていた少女にとって、それだけで十分であるはずだった。
しかしレイはカスミと出逢ってしまった。カスミから与えられた心は、レイの中で急速に成長してしまったのだ。人間関係についてまったく無知だったレイは、自分がゲンドウに求めようとしていた絆がどんなものであるかも理解した。レイは、ゲンドウに父娘の絆を求めていたのだ。
しかしゲンドウはレイを見てはいない。それだけではなく、レイが好意を寄せる相手でもある、実の娘のカスミにさえ冷たく当たっている（レイの目にはそのようにしか映らなかった）。
ゲンドウに対するレイの心が急速に冷めてしまったのは、当然のことかもしれなかった。

レイはしばらくブローチを眺めた後、満足したようにそれをチェストの上に置き、自分の部屋を後にした。

「綾波さん！」
「碇さん」
カスミ達一行は、ゲートのところで偶然レイに出逢った。嬉しそうにレイに向かって駆け出すカスミ。レイも少し頬を染めてカスミを迎えた。
それからカスミ達は更衣室へ、ミサトは自分の執務室へ、それぞれ向かった。

「やあ、みんな。今日もテストかい？　ご苦労様っす」
更衣室へ向かう途中の３人に声をかけてきたのはロンゲであった。カスミを意識してか、その顔には爽やかな微笑みが浮かんでいる。
「あ・・・」
カスミはロンゲの姿を認めると、赤くなってモジモジし始めた。
「お、おはようございます、・・・お兄さん」
カスミが挨拶すると、ロンゲの目が怪しく光った。
（お兄さん？　確かマコトは「日向さん」、マヤのことは「マヤさん」って呼んでるよな、カスミちゃん。・・・俺だけ特別？）
今もカスミはモジモジしたままだ。
（もももも、もしかしてカスミちゃん、俺に惚れたっすかあああぁぁぁっ！！？）
ロンゲの頬も、桜色に染まった。
「じゃ、じゃあ、私達行きますね」
カスミは赤い顔のまま、逃げるように廊下を進んで行った。

ロンゲと別れると、カスミはばつが悪そうな視線をレイに向けた。
「綾波さん・・・今の人、名前なんだっけ？」
レイは少し目を見開いた後、考え込むような仕草をし、そして諦めたような表情で、
「ごめんなさい」
と小さく呟いた。
カスミが今度はアスカに視線を向けると、そこには、びくり、と体を震わせる少女がいるだけだった。
「・・・惣流さんも知らないんだ・・・」
「し、失礼ねっ！　アタシに知らないことはないわよっ。・・・そう、アイツはロンゲ！　ロンゲって名前よ！」
「ロンゲさんかぁ・・・って、そんなわけないでしょっ！」
「べ、別にどーだっていーじゃん、あんなヤツの名前なんて」
あっさり開き直るアスカ。
「よくないよぉ。さっきだって突然声かけられて、名前思い出せないから、もの凄く焦っちゃったんだよ？」
「いいんじゃない、さっきみたいに『お兄さん』って呼んでやれば。アイツも嬉しかったみたいだしぃ」
「え、そうだった？　・・・じゃ、取り敢えず名前覚えるまで『お兄さん』でいいよね」
結局カスミは、今日もロンゲの名前を覚えることはなかった。

『お兄さん。私、お兄さんこと・・・好きになっちゃったの。だから・・・抱いてください』
頬を赤く染めながら、制服のリボンをほどいていくカスミ。その男の劣情をそそりそうな姿でさえ、可憐であった。
『か、カスミちゃん、いいのかい？』
思わずロンゲの喉が鳴る。カスミは上目遣いのまま、小さく頷いた。
『はい。・・・でもカスミ、初めてだから、優しくしてね・・・』
さらに真っ赤になって俯くカスミ。
ついにロンゲの理性が吹き飛んだ。
『カスミちゃん！』
『あ・』
実状を知らないロンゲは、中学生相手の危険な妄想に耽るのであった。


各種テストの合間、カスミはケージに佇んで、３機のＥＶＡを眺めていた。
そこへレイとアスカがやってくる。
「どうしたの？　碇さん」
「なに不景気な顔してんのよ？」
「うん。零号機と弐号機って、カッコイイなあと思って」
「はぁん？」
「なんかさ、初号機って、鬼みたいな顔してるんだモン」
それはカスミが、普段から密かに抱いていた不満であった。ロボットじみた零号機や弐号機とは違い、確かに初号機はいかめしい、というより凶悪な顔付きをしている。可憐な少女が駆るには、あまりに無骨すぎるデザインであった。
「しょーがないんじゃない？　パイロットに合わせて造ってるわけでもないしさぁ」
弐号機に不満などありようのないアスカは、どこか他人事のように言った。
「そりゃそうだけどさぁ」
カスミは可愛らしく、唇を尖らせたままだ。
レイはそんなカスミを見て、先の浅間山火口でのオペレーションを思い出していた。
あのときのアスカは、今のカスミのように、膨らんだプラグ・スーツや弐号機のＤ型装備に文句をつけていた。
不意にレイは零号機を見つめる。換装が終わった零号機は、初めて乗ったときとは違い、青を基調としたカラーリングに変えられていた。
レイの心には、愛着も不満も起こらない。
やはりレイは、首を傾げることしかできなかった。

「紫っていうのも、怖さ倍増だよね」
カスミの不満は続くようだ。
「そう言えば、赤と青を混ぜると紫になるわね」
アスカが意味深な口調で話し始める。
「だから？」
「アンタのプラグ・スーツも、アタシとファーストのを混ぜた色ね」
カスミは薄桃色、レイは白、アスカは真紅のプラグ・スーツを着ている。
「・・・私は真ん中ってこと？」
「そう。アンタは平凡ってこと」
アスカがイタズラっぽくニヤリと笑うと、カスミは途端に頬を膨らませた。
「んもうっ、すぐそういうこと言うぅ」
「ふふっ、ふふふふふっ」
笑い出してしまったのはレイだった。
「綾波さんっ！」
カスミは顔を赤くして抗議するが、その後ろではアスカが呆気にとられていた。
（コイツ・・・笑うんだ・・・）
「ごめんなさい、碇さん。・・・碇さんが、とても可愛らしかったから・・・」
自分の恋人にそう言われては、カスミも黙るしかなかった。頬を染めて俯いてしまう。

最近のカスミは、色々な表情を見せるようになった。不満を口に出し、頬を膨らませ、ときには怒ってみせる。人間の複雑な感情を、まだ完全には理解できないレイであったが、第三新東京市に来たばかりのカスミが、どこかしら遠慮をしていたことは直感で感じられていた。
だからレイは、カスミの様々な感情のすべてが愛おしかった。きっと今も、誰も周りにいなかったなら、カスミを抱きしめ、キスの雨を降らせてしまっていたことだろう。

レイの知らないことであったが、カスミはずっとどこかで遠慮をしながら生きてきた。人に捨てられるのが怖くて、いい子を演じることで世界と関わってきたのだ。
カスミはレイという恋人と、アスカやトウジといった仲間のおかげで、やっと自分というものを表に出せるようになっていた。


「あ〜あ、ヤダヤダ。色気のない女どもは」
テストが終わったばかりの更衣室。さっさと着替えの終わったアスカが、カスミとレイの着替えてる姿を見て大袈裟に嘆息した。
「はい？」
「何？」
「アンタ等のことよっ。何よ、その色気のない下着はっ！？」
カスミもレイも、何の装飾もない白の下着を着用していた。アスカが喚き散らすと、２人の少女は不思議そうに顔を見合わせた。
「・・・よく、わからない」
レイは素直に感想を述べた。
「私達、中学生だモン。これで十分だと思うケド・・・？」
カスミも、アスカが何故呆れてるのかわからない様子だ。彼女としては、精一杯大人っぽい下着をつけてきたつもりなのである。
普段カスミは、ネコさんやくまさんのプリントのついたパンツを穿いているのだが、人目のあるところで着替えなくてはいけない日は、今日のように無地の下着を着用しているのだ。
「あ〜、ヤダヤダ。アンタ等、姉妹みたい。顔も似てるけど、中身もそっくりなのねぇ〜」
「え、私、こんなに綺麗じゃないよ？」
レイの下着姿に舞い上がってるカスミは、レイの体が微かに強張るのに気付かなかった。
「ファーストが美人って言っても、アンタとどっこいどっこいよ。アタシ程じゃないわっ。・・・そうねぇ、ファーストはネコっぽいし、カスミは犬っぽいけど、顔の輪郭とか口元とかそっくりよ」
「ふぅん」
恋人に似てると言われて、まんざらでもないカスミだった。
「あと、胸の薄いところもね」
「んもうっ」
カスミの頬が再び、ぷくっ、と膨れた。
「んじゃアタシ、ヒカリの家に遊びに行くから。遅くなるからご飯はいらないわ」
そう言うとアスカは、１人でさっさと更衣室を出ていってしまった。
「今日、ミサトさんも遅くなるんだ。私１人かぁ」
「なら、私の家で食べる？」
「うんっ」
それでカスミとレイは、手をつないで一緒に帰った。


「んっ・・・ん・・・」
「ふ・・・んんっ・・・」
いつものように、レイの部屋で口づけを交わす２人。レイの心は、日を追うごとにカスミに引き付けられていく。それはカスミも同じだった。
２人はまるで切ない乾きを癒すように、互いの唇を、柔らかな舌を、求め合った。
レイが目を開けて顔を離すと、そこにはカスミの蕩けたような表情があった。
「綾波さん・・・大好き・・・」
甘えたような声に、レイの頭の奥が熱くなる。
「私も・・・」
レイは再びカスミの唇を啄んだ。互いの背中に回した腕に力がこもる。
２人の少女は、まだ互いの体を求めることはしていない。
カスミはその幼さ故、歯止めがかかっていたし、レイは自分が秘密を持っていることに後ろめたさを感じているからであった。
それでも相手の柔らかい唇の感触は、少女達を夢中にさせたし、大いに慰めてくれていた。


レイは寝る前に必ずシャワーを浴びる。１日に何回とシャワーを使うのは彼女の習慣だ。別に潔癖性というわけではない。部屋の模様替えをする前は、部屋がどんなに散らかってても気にしなかったくらいである。
レイにとって、水に触れるということ自体が楽しみであったのだ。

シャワーを浴びて火照った体をカスミの選んでくれた水色のパジャマに包むと、レイは自分のベットに腰をかけた。
さっきまでカスミが座っていたベット。レイはカスミがいた辺りを愛おしそうになでた。
「碇さん・・・」
レイの頭にカスミの色々な表情が浮かぶ。
はにかんだような笑顔。
恥ずかしそうに頬を染めた顔。
寂しげな表情。
拗ねて頬を膨らませた顔。
涙に濡れた顔。
困ったような顔。
すまなそうに俯いた顔。
驚いた表情。
きょとんとした顔。
レイは、カスミのことを考えている内に、体の中心から切ない疼きが沸き上がるのを感じた。
その疼きに応えるように、レイはパジャマの中にそっと手を伸ばした。
固くなった胸の先端から、甘い痺れが背中を駆け抜ける。
下腹部の茂みの下は、すでに熱く濡れていた。レイの指が切なげに動く。
「あ・・・は・・・いかり、さん・・・・・・あ・・・」
思わず声が漏れた。レイは、その魂の、心の、体のすべてで、カスミを求めていたのだ。
さっきの口づけを思い出す。蕩けたようなカスミの表情。
カスミはまだあどけなさの残る顔をしながら、ときどき驚くほど色気を感じさせることがある。それがレイをさらに切なくさせるのだ。
「・・・碇さん・・・・・・碇さん・・・」
レイはうわごとのようにカスミの名前を呼びながら、行為に耽っていった。
頬が紅潮し、息が荒くなり、切ない感情が突き上げる。レイはカスミを思い出している内、自分の手がカスミのものであるかのような錯覚に陥った。衣ずれの音が激しくなる。
「は、ああっ」
そしてあっさりと高みへ押し上げられる。エビのように体を丸めたまま硬直し、その後ゆっくりと弛緩していった。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ・・・」
レイはベットにうつ伏せに倒れ込み、荒い呼吸を繰り返した。静かな室内に、レイの呼吸音だけが満ちていく。
「・・・ふっ・・・ううっ・・・う・・・」
そしてそれは、いつの間にか弱々しい嗚咽に変わっていた。レイの白磁の頬に涙が伝う。その華奢な肩が、切なげに震えた。
「・・・碇さん・・・私、ヒトになりたい・・・」
嗚咽の間から漏れた告白は、あまりにも哀しいものだった・・・。


アスカが風呂から上がると、カスミは女の子座りでＴＶを観ているところだった。ふと、何かを思いついたアスカは、そのままカスミの側まで歩いていくと、その膝に頭を乗せた。
「何？」
「ん」
アスカが綿棒を差し出す。
「耳掃除？」
「ん」
カスミは柔らかく苦笑すると、アスカの差し出した綿棒を受け取った。
耳掃除を始めると、アスカはうっとりと目を閉じた。その頬には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「気持ちいいの？」
「ん」
満足そうなアスカの様子に、カスミは自分の恋人の顔を思い浮かべた。
（今度、綾波さんにもやってあげようかな）
人に愛された経験のないレイなら、きっとこんなことも初体験であろう。そう考えて、カスミは少し眉を曇らせた。それは自分も同じだったから。そして多分、アスカも。
夜の時間はゆっくりと過ぎていく。アスカはカスミの膝枕で、いつしか眠ってしまったようだ。カスミはその寝顔を優しげに眺めていた。
「ママ・・・」
不意にアスカが寝言を言った。目の端には涙が盛り上がっている。
「惣流さん・・・」
カスミの胸に切ない気持ちが広がった。最近彼女は、アスカに対してはっきりと友情を感じ始めているのだ。

『あなた達２人は、似ているわね』

ミサトのセリフがよぎる。
「惣流さんも、私達と同じだったんだ・・・」

寂しい少女達の夜が更けていく・・・。

（つづく）

後書き

２回目の外伝です。このお話は１０話と１１話の間のエピソードになります。
１０．５話とお考えください。
ちょっと哀しい話ですが、３人の少女が幸せになる過程を描くにははずせないエピソードだと思って入れました。アスカも、ちゃんとトラウマから立ち直らせてあげるつもりです。

レイがゲンドウに親子の絆を求めてるって、コミック版ではロコツに表現されてますよね。シンジをライバル視したり。でもヤシマ作戦の後は、シンジとゲンドウの仲を取り持つようなこと言ったりと、けっこうゲンキンだったりするかも。
この話のレイも、その辺のゲンキンさを受け継いでるようなカンジですね（＾＾；

ところでロンゲ・・・哀れ（＾＾；
覚えやすい名前なんですけどねぇ。
ところでマジメな話、自分に自信のないカスミは、こんな媚びるような誘い方はできないでしょうね。

そしてついに今回、年齢制限になってしまいましたね（＾＾；
ついに僕もこんなの書いちゃったか・・・。思えば遠くへきたもんだ。

感謝の言葉：

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