☆スポンサーにも訪れてくださいね☆
翌日。
放課後の学校…教室でシンリはプリントの束を持っていた。
茶色の髪の活発な印象の少女…マナが、考え事に没頭してる
シンリの前に、ひょい、と顔を出して覗き込む。
「シ〜ンリくん♪ どうしたの？」
ガタン！
「！！！」
驚いたシンリが慌てて体を引き、椅子がぶつかって派手な音を立てた。
想像以上の音にマナまでびっくり。
「ごめんね、そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど？
…それ、日直の仕事？」
軽やかな笑顔が、場の空気を和ませた。
マナの人懐っこい明るい雰囲気が一役買ってる。
「…う、うん。
その…渚君の家に届けなくちゃいけなくて…」
果てしなく口調が後ろ向きっぽい。
マナはちょっと思案した後、悪戯っぽい表情を浮かべた。
「男の子の家に一人で行けないよね。
だったら、わたしも一緒に行ってあげる♪」
行くのに気後れするのは当然、という気持ちをさり気なく混ぜて。
「……えっと」
少しだけ躊躇の素振りを見せるが、マナはさも返事は聞いた、と
いうように、一緒に行こう、と手招く。
楽しそうな笑みと共に。
「……ありがと」
救いの手が差し伸べられたことに、シンリはちょっとだけ恥ずかしそうに
感謝の言葉で応えた。
マナの後押しがなければ、もっと悩んでいただろうから。
トイレに一人でいけず、親についていってもらう子供のような
心境だったのかもしれないけれど。
「渚君の家ってどこだったかな〜？」
携帯端末を取り出して、住所検索画面を呼び出す。
…シンリは素直に其の画面を覗き込んだから、ぜんぜん気づかなかった。
今日は珍しく、アスカも綾波さんもいない！
っというか、他の面子も偶然いない！
こ〜んなチャンス、他の誰が逃そうとも
私、霧島マナは逃しませ〜ん♪
満面の笑みを浮かべたマナの意識から、プリントを届けるという
目的がごろごろごろっ、と転げ落ちつつあることに。
＊
第一発令所。
青葉は、部下達からの報告を聞いて顔を顰めていた。
「ゴムタイヤの製造工場で火災発生…、
こっちは、石油化学コンビナートで原油流失？
しかも、どの工場も予定より進捗は遅れ気味か」
データを眺めてみると、その傾向ははっきりとしてくる。
人の集中力というものはいつまでも持続するものではない。
それと同じで、フル操業状態をいつまでも続けていれば無理がでる。
資源の調達から始まり、物資の輸送、設計、製造…
どの分野でも、簡単なミスによる障害が増加傾向にある。
ひとつずつはそれほどでもないのだが、それらが、
集まることで、最終的な納期には大幅な遅延が生まれてしまう。
エヴァ用武器の換え部品すら満足に揃わない現状。
エンジェルバスター、ポジトロンライフルといった
超威力兵器の整備もそのせいで、進んでいない。
崩壊寸前ともいえる第三新東京市の復旧用として、
材料はもとより、マンパワーに至るまで回してしまったツケも
今にして、ボディブロウのように効いてきている。
「まずいな…これは」
青葉の表情が曇る。
…問題を含む企業に是正させればいい、そんなLv.の話だが
では、全ての…そう、全ての企業、国が問題を抱えていたら？
ミスがでないように検査を増やせば生産力が減る。
生産力を減らさないようにすれば、どこかにしわ寄せがいく。
疲労の蓄積。
人類は確実に、使徒との戦いに疲弊しつつある。
そして、統計データは無情に、現実を語る。
既に人類の生産能力はピークを過ぎて、下降を始めていた…。
＊
しばらく松代にいって起動試験に付き合うこともあって、
トウジは、しばらく学校を休むにあたり、担任である老教師と
相談をしていたのだが、それも終わって教室に戻ってきた。
カバンから取り出したパンに噛り付き、牛乳を飲む。
午前中はＮＥＲＶ本部で打ち合わせなどがあったりして、
妙な時間に学校に戻ってきたせいで、昼食を食べ損ねていた。
おかげでお腹はぺこぺこである。
「…鈴原」
「ん？」
お下げ髪の少女、ヒカリが静かに入ってくると
遠慮がちに話しかけてきた。
どことなくいつもの快活な勢いが感じられない。
「鈴原っていつも購買のお弁当だね」
「作ってくれる奴、おらんからなあ」
パンよりはご飯のほうが好み。
これは、いつも皆で昼食を共にしているので確認済み。
トウジも、前に話したやろ？ といった表情だ。
でも、ヒカリは、トウジの返事を反芻して、
そうよね、大丈夫よね、と気付かれないように自己暗示。
「わたし、姉妹が二人いてね。名前はコダマとノゾミ。
いつもわたしがお弁当作ってるんだけど・・・」
「ナツミから聞いとるで。
毎日、難儀なことやなあ」
同じ事を続けるのがどれだけ大変なことか。
朝晩の食事を作ることもあるので、素直に労いの言葉をかけた。
ヒカリの顔がぱっ、と明るくなる。
鈴原ならそう言うだろう、と予想していても、
やはり実際に言われるのでは輝きが違う。
「だから、こう見えても意外と料理うまかったりするんだ…」
「ほう」
委員長の料理の旨いことくらい知っとるで？
トウジは、どういう意図なのか掴みかねた。
「だから、わたし、お弁当の材料いつも余っちゃうの…」
「そら、もったいないなあ…
委員長の料理なら毎日食っても飽きへんのに」
食に拘りを持つトウジは、本当に残念そうだった。
食材は、使わないと鮮度も落ちる。
「の、残り物でよければ…お弁当、食べる？」
精一杯の勇気を振り絞って、ヒカリは本題を切り出した。
…トウジの心が激しく揺さぶられる。
しかし、即答しそうな感情を踏み止めて、
トウジは、しばらく考えてから、話し出した。
…時間が経つほどヒカリの表情が不安そうに揺れるのに
耐えかねた…のかもしれない。
「ナツミのことといい、委員長には世話になりっぱなしや。
せやから、…今度、給料が出たらやけど、
欲しがってた料理の本をプレゼントするわ」
照れくさそうに…それでもはっきりと謝意を表した。
給料が出たら、とか言うあたり、お小遣いが厳しい中学生では
仕方がないところだろう。
「うん！ 私、がんばるから！」
昼休みに何気なく交わす話なのに、ちゃんと覚えてくれてる。
ヒカリは、花が咲くような笑顔をみせた。
「いゃ、委員長、残り物でええんやで？」
トウジが遠慮がちに思い出させる。
残り物が無駄にならないのがそんなに嬉しいんやろうか？
いやいや、欲しい本が手に入るのが嬉しいのかもしれん。
…ちょっと、トウジの思考は混乱していた。
「そ、そうよね、そう、残り物！」
喜び過ぎて制しきれない嬉しい気持ちがあっちへふらふら、
こっちへふらふら。
トウジが怪訝な顔をしてたけど、ヒカリは思いっきり
”残り物”と力説した。
＊
きん、こ〜ん
チャイムを鳴らすが、まるで出てくる気配がない。
…ここは、ＮＥＲＶの職員達が住む独身寮の一角。
表札に「渚カヲル」と書かれているドアの前。
久しぶりにシンリと二人きり、歩きながらだけど話もできて、
マナの表情はけっこう満足そうだ。
「…？ 今日はもういるはずなんだけど…？」
シンリがＭＡＧＩに問い合わせてみるが、確かに昨晩、
特別機で、ＵＮ軍グアム基地からこっちに戻ってきている。
特に仕事が入っているわけでもない。
でも、どこか、ほっ、とした様子。
…ポストにプリントの束を入れていけばいいかな、と
早くも態度は逃げ腰な感じ。
けれど、シンリの思惑とは裏腹にマナは、躊躇なく
ドアノブに手をかけて、試しに回してみた。
カチャン
扉が開いてしまう。
「無用心だね」
マナが「困った奴」と頷きながら、ドアをそ〜っと開ける。
「渚君？」
開いてしまっては仕方がない。
ちょっとだけ覗き込んで、問いかけるが返事はない。
見ると、電気コンロでお湯を沸かしているところらしいのだが、
見回しても誰もいない。…シンリは、少しだけ迷ったが、
靴を脱いで上がってスイッチを切った。
すっかり沸騰していて、溢れる寸前。
はぁ
シンリとマナは、二人して、ちょっと溜息。
簡素な室内。
シンリやマナの感覚からしても、綺麗な状態。
戻ってきたばかりなのか、旅行用の大きなバックは片隅に。
テーブルの上には、ＮＥＲＶのパスが無造作に置かれてる。
さりげな〜く、無意識のうちに、部屋の中を見回してしまうのは、
シンリは家事をしているから、マナは訓練によるものだろう。
二人して、目に留まったのは、無造作に脱ぎ捨てられた
ワイシャツ…ズボン…靴下…下着！
「「………………………………こ、これって」」
服を脱ぎ捨てるのはよくないよ、渚君…とか、
脱いだら片付けるのが軍人の基本だよね！ …とかとか、
思考が逃避行動をとりつつあったところに…
カチャッ
背後から、室内扉を開く小さな音が響いた。
「……………………シンリ…くん！？」
聞き覚えのある少年の驚いた声。
誘われるように、シンリとマナを後ろを振り返った。
そこには…
バスタオルを肩からかけただけの銀髪の少年が
髪から湯を滴らせたまま、バスルームから無造作に
拭きながら出てきた姿があった。
＊
「あ！ …勝手にあがっちゃって、プ、プリントを届けに！
そ、お、お湯がこぼれちゃいけないから、
元、元気そうで、嬉しくて、あ、で、ででも！！！
玄関の…、その、ぶ、無用心だと…、あ、後で見て！
それじゃ！！！」
ぐぉん、と風を切る轟音が聞こえるのではないかという勢いで
視線を逸らすと、焦りまくったまま説明しようと話し、
…カヲルのほうにプリントを差し出すと、
受け取るのを確認もせずに手放し、外に弾かれるように
…行ってしまった。
バタン
ちょっと大きな扉を閉める音…。
ぱらぱらとゆっくりと床に落ちるたくさんのプリント。
パニック状態のシンリが放った熱気が室内に残って
空気がいまだにザワついているかのよう…。
ぽたん
髪から滴り落ちた水滴が床下のプリントを濡らしたのをみて
カヲルは、シンリが去っていった玄関のほうを見たまま、
バスタオルで髪を拭いた。
散らばっているプリントを集めて、マナはテーブルの上に
丁寧におき直すと、やっぱり少〜し、視線を斜めに外したまま口を開いた。
…ちなみにシンリほどではないのだが、頬が紅潮してる。
「私とシンリくんは、長期欠席をしていた
渚カヲル君に溜まっていたプリントを届けるように、と
担任より指示を受け、ここにきました。
…調子が悪いって聞いたから、ちょっと顔色でも
見てみようかと思ったけど…”元気”そうで何よりです」
口調がかちんこちんに報告っぽいのは、自分の感情をできるだけ
隠そうとする現れか。…けれど平静を装っても、違和感だらけである。
「…そういうことか」
カヲルは、マナの整然とした物言いで、
やっと、事態を飲み込めたようだ。
しかし、どうも反応が鈍い。
鈍い！ 鈍過ぎるよ、渚君！
マナの横顔がそう語っていた。
それでも、なんとか努めて落ち着いた口調で一言。
「…それより、前、隠したら？」
部屋の空気が白々しいものに変わっていった。
＊
ゼーレ傘下企業で着々と進む作業。
汎用コアと、超小型核融合炉の製造。
骨組みだけとも見えるレーザーライフル用部品の搬送。
膨大な資材と技術力を必要とするエヴァ系技術の利用。
青葉が知った生産力の低下…その少なからぬ原因が
この極秘開発によるものだった。
それでも、４号機型エヴァを量産するのに比べれば、
影響は格段に小さい。
巧妙な帳簿操作と物資の密輸のせいで、これらの
「裏」の生産力は水面下に埋没してしまう。
無から物を作り出すことはできない。
我々、人類は神ではないのだから。
けれど、人が人を欺くのはとても容易い。
…世界中に影響力を持つゼーレにとって、情報の
帳尻合わせ程度のことなど造作も無いことだった。
＊
マナも去った後…。
カヲルは、ベットに仰向けになって転がり、天井を見ていた。
「…何も言えなかった」
余裕な表情を見せることすらできなかった。
落ち着いた雰囲気を纏うことすら…。
シンリの白金色の艶やかな髪が、赤い綺麗な瞳が、
陶磁器のように白く滑らかな肌の色が、次々と思い出される。
そして、懐かしい立ち振る舞い。
心に響く澄んだ声。
再会を喜ぶ笑顔。
「…こんなこと、今まで一度もなかったのに」
悩ましげに深い溜息を零す。
思考がまるで纏まらない。
緩慢な動きで、シンリ達が届けてくれたプリントを手に取る。
…とりあえず目を通すが、情報が心を素通りしていってしまう。
「……」
ふぅ…と溜息がまたひとつ。
時の流れがやけに遅く感じられた。
＊
日差しが傾く夕刻。
誰もいないミニバスケットのコート。
そこに一人、黒いジャージを着た少年が立っていた。
心に過ぎる様々な想い。
馬鹿騒ぎしている日常からは想像しにくい。
…そんな生真面目な表情。
その目にもはや迷いはない。
フリースローラインから放たれたシュートは、
放物線を描いてゴールへと吸い込まれていく。
ガン、ゴン
ボールはバックボードに当たって、
見事にゴールネットを揺らした。
ふぅ…やっと、第１７話シリーズ、終了です（＾＾）
なんか、今回はいろいろと書いてて疲れました。
原作にないシーンが多かったせいでしょうね。
ほのぼのとした子供達のシーンは書いてて楽しかったですけど。
…キールさん、予想以上に働いてくれちゃいました。
あと、なんとなく今、おまけとして書くのがぴったりな気がするので、
ＴＶ版第２６話の世界から、ちょこっとだけオマケ話を。（こちらから）
次から第１８話「命の選択を」開始です…。
アメリカ本土を飛び立つ超大型全翼機（エヴァキャリア）。
その機体に黒を基調としてカラーリングされていた３号機を抱えて。
天候監視衛星が察知できなかった謎の積乱雲…。
機動性など皆無に等しく、特に危険性もないため直進する機体…。
異例続きの事態が続く搬送作業……。
そして…。
では、次回以降もお楽しみに♪
☆スポンサーにも訪れてくださいね☆