２０１５年０５月１５日 日本・ネルフ司令執務室
薄暗い部屋には二人の男、
執務机につくのは濃く赤いグラスに白い手袋の男・・・・
そして側に立つのは白髪の初老の男・・・・
部屋に響く、感情を感じさせない男の声、
その表情は赤いグラスの奥に隠され、表れる事は無い・・・
「サードが発見された・・・・」
脇に立つ男が、短く話しかける・・・
「シンジ君か、九年振りだな・・・」
「うむ、これで駒はそろった・・・・」
「駒・・・仮にも自分の息子だろう・・・・」
「では、ドイツのセカンドの方は取りあえず保留かね？」
「そのまま進めろ・・・・」
「サードが使い物にならない場合はセカンドを使用する・・・」
「良いのだな、碇・・・」
「問題ない・・・・」
平坦な男の声がやや緩む・・・
「冬月せんせい・・・所詮我々も駒に過ぎませんよ・・・・」
脇に立つ男はやや苦笑しながら答える・・・・
「そうだったな・・・」
そして、部屋には再び沈黙が訪れる・・・・
２０１５年０６月１５日 日本・１０：０５・第三新東京市行きリニアトレイン内
座席には二人の男女が座る・・・・
その車両には二人以外の乗客の姿はない・・・
冷たく氷のような気配が彼ら二人を包む・・・・
押し殺した男女の声・・・感情を表さない冷徹な戦士の声・・・
「到着した後は、予定通り別行動になる・・・」
「プランＤ−３に従い行動、但し、緊急時はプランＦ−７を基に事後の判断は任せる・・」
「Ｆ−７・・・・それほどの事態が発生する可能性があると？」
「第三新東京市に近づくにつれ、厭な感覚がだんだん強くなる・・・・」
「貴官も近づくにつれ、段々自分の口数が少なくなっていることに気が付かないかね？」
「そうですね。日本は治安が良いと聞いていたので・・・・」
「そういえばジャングル内の不正規戦で、特殊部隊とやり合った時の様な感じがしますね・・・・」
「まるで、敵に包囲されつつある様な・・・・」
「何かは判らないがね・・・おそらく何かが起こる・・・」
「取りあえず私は、足止めですね。」
「そう、ネルフ作戦部長ミサト・葛城大尉・・・・」
「ファイルには、目を通したかね？」
「はい・・・」
「ＮＥＲＶ・ＪＡＰＡＮ作戦部長・ミサト葛城一尉」
「年齢：２９才」
「戦略指揮能力 Ｄ−」
「戦術指揮能力 Ｂ＋」
「近接戦闘力 Ｃ−」
「緊急時対処能力 Ａ＋」
「通常の指揮官としては並、緊急時の即応能力に優れ、それ買われてネルフに招聘・・・」
「但し、理性よりも感情を優先させる傾向が若干観測される・・・」
「学生時代からの親友にリツコ赤木、恋人はリョウジ加持大尉・・・・」
「この二点だけでも要注意ですね・・・」
「最も危険なのは、司令のゲンドウ碇、副司令のコウゾウ冬月、技術部長のリツコ赤木の三名だ・・・」
「だが、葛城大尉も要注意だな・・・・」
「もっとも写真を見る限りは、それほどの人物とも思えないがね・・・」
取り出したのは、真っ赤なキスマークが付いた一枚の写真。
写真に写るのは長い黒髪の美女・・・胸元には矢印とでかでかと書かれた『ここに、注目！！』のメッセージ。
「カモフラージュの可能性があると？」
「だとしたら、まさに恐るべき人物といって良いだろう。」
「本物のプロフェッショナルはたとえ家族にもその真の姿を見せないということですね。」
「敵は余りにも巨大だ、常に充分な注意が必要だ、臆病過ぎるほどのね・・・」
扉の開く音がして、車掌が入ってくる。
その車両には二人の乗客、向かい合わせに座る二人の男女・・・・
一人は３０歳前後と思われる、ブルネットの髪にダークグリーンの瞳の女性・・・
もう一人は、黒髪の少年・・・
穏やかな空気が二人を包む・・・・
女性は少年に話しかける・・・
「シン、もうじき着くわね・・・・」
二人は互いに言葉をかわす・・・
「そうだね、取りあえずしばらくお別れだね、マリア」
「そうね、身の回りが落ち着いたら、私も第三新東京市に引っ越すわ・・・」
「保護者ですからね・・・」
少年は面白そうに笑う・・・
「マリア・・・面白がっていない？」
女性はにっこりと微笑み言葉を返す・・・
「当たり前でしょ、こんな機会は滅多にないもの・・・」
「貴方は、シン・ロドリゲス・・・」
「私、マリア・ロドリゲスの弟で披保護者ですもの・・・」
「ちゃんと戸籍にも書いてあるわよ・・・」
シンと呼ばれた少年は笑いながら返事を返す・・・
「でも、戸籍には２００７年にマリア・ロドリゲスの養子になったと書いてなかったっけ？」
マリアの言葉が少し険を帯びる・・・
「結婚もしてないのに、１４歳のこぶつきですって・・・」
シンは苦笑して言葉を返す・・・
「はいはい、お姉さま・・・・」
マリアはにっこりと笑う・・・
「そうそう、子供はやっぱり素直じゃないとね・・・」
「ご褒美に、あと４年たったら結婚してあげても良いわよ・・・・」
「もっとも、シンはドイツにいるお姫様の方がいいかな？」
「それは、その・・・・」
少し赤みを増した少年の頬・・・
年相応の笑顔・・・
マリアは、クスクスと笑いながら、話を変える・・・
「そういえば、お父様ってどんな方？」
シンは、一通の手紙を取り出し、困った様に返事を返す。
手紙には、ただ一言
『来い・・・』
としか、書いていない。
「九年も行方不明になっていた息子に対する、手紙がこれだからねえ・・・」
マリアは、少し呆れて話しかける・・・
「あらあら、どうするシン・・・このまま次で降りて私と一緒に帰る？」
「いや、せっかく『来い』と言ってくれてるんだ。」
「行くだけ行ってみるよ。」
「それに、マリアも来てくれるんでしょ？」
シンは少し甘えるように声を返す・・・
マリアは、シンの頭を抱きしめて優しく言葉を返す・・・
「あらあら、甘えんぼさんなんだから・・・」
車内にアナウンスが響く・・・・
『次は新箱根・・・次は新箱根・・・出口は右側になります・・・・』
小さく呟く、男女・・・
「第三新東京市まで１３ｋｍ、車ならばすぐだ・・・」
「第三新東京市駅で降りればＭＡＧＩのチェックに引っかかりますからね・・・・」
「行くぞ、迎えが来ているはずだ・・・予定通り先行する・・・」
「了解・・・」
二人の人影が、立ち上がる。
同日、１２：３０・第三新東京市
アナウンスが響く・・・
『本日１２時３０分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。
住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』
アナウンスを聞いた人々が、整然と避難を始める・・・
「また、抜き打ちの非常訓練かな？」
「いや、今度は本当らしい・・・・」
同日、１２：４０・第三新東京市
人波に逆らって走って行こうとした少年を大人達が呼び止める・
「おい、君・・・何処へ行くんだ・・・・」
少年は答えて走って行こうとする・・
「妹が、おらんのや！！」
「君、待ちなさい・・・早く避難するんだ。」
「妹さんも、きっと近くのシェルターに避難しているだろうから・・・」
数人の大人に取り押さえられる少年・・・
同日、１２：４５・新芦ノ湖・箱根スカイライン
爆音をあげて暴走する青い車・・・・アルピーヌ・ルノーＡ３１０（改）
運転するのは・・・グラマラスな肢体を制服に包んだ黒髪の美女・・・
ネルフ作戦部長・葛城ミサト一尉・・・
「いっけな〜い、すっかり遅れちったぁ・・・・」
運転しながら、横目で写真を見る・・・・
写真には、二人の男女・・・・
「碇シンジ、１４才か・・・・」
「隣に写っているケバイ女が、今まで保護者だったマリア・ロドリゲスね・・・」
「職業・・・医者か・・・」
同日、１３：２５・第三新東京市
お下げ髪の少女が、人の姿が消えた街を走っている・・・
十才位だろうか・・・
「いや〜ん、はぐれたお兄を探していたら、誰も居なくなっちゃった・・・」
ドッゴーン・・・ひゅうぅ・・・・
爆発音とともに、国連軍のマークが着いた、攻撃機が墜落してくる・・・
墜落し、爆発する飛行機・・・
少女の悲鳴・・・
「きゃぁぁぁぁ・・・・・」
崩れ落ちる、建物・・・爆炎の中に消える少女・・・
同日、１３：２７・新箱根駅前
キキィー・・・
急ブレーキを掛けて横付けする青い車・・・・
悲鳴とあげるホイール・・・・焼け焦げたゴムの臭い・・・
止まったのは、一人の人影の前・・・・
助手席の扉を開けてすかさず乗り込む一人の女性・・・
ブルネットの髪に、知性を秘めた深緑の瞳・・・
「遅かったわね・・・急いでね運転手さん・・・」
抗議の声をあげる黒髪の女性・・・
「ちょっとぉ〜、ダレが運転手ですって・・・・」
「大体、シンちゃんは何処行ったのよ・・・・」
不思議そうに首を傾げる女性・・・
「あら？私の事を聞いていないの？？」
「マリア・ロドリゲスよ・・・」
「それに、シンなら先に行ったわ・・・予定がかなり早く終わったんで・・・早く付き過ぎたの・・・」
「第三新東京市を見に行くんですって・・・」
「道を走って来た車に乗せて貰って、とっとと行っちゃったわよ・・・」
柳眉を逆立てる女性・・・
「先に行ったですってぇ〜」
「大体、何でアンタは当然のように助手席に座っているのよ・・・」
マリアは答える・・・・
「ふーん、日本人って初対面の人間をいきなり『アンタ』呼ばわりするんだ・・・」
「大体、お名前も聞いていなかったと思うけど・・・」
「それとも、私が名乗ったのが聞こえなかったならば、もう一度言うわね・・・」
「マリア、マリア・ロドリゲス ２９才（３才ばかりサバをよんでるけどね・・）」
「職業は医者よ・・・」
「安心して・・・更年期障害で耳が遠くなった人相手に腹を立てるほど狭量じゃないわ」
「えーと、ミセス・・・・」
怒り狂う、黒髪の女性・・・
「こ、更年期障害ですって・・・」
「それに、私はまだ独身よ・・・・」
コロコロと笑う、マリア・・・・
「あら、御免なさいね・・・日本人って年齢が判らないっていうから・・・・」
「あなたを待たなくて、私も先に行っちゃっても良かったのよ・・・せっかく待ってたのに・・・」
「それに、いきなりシンを『ちゃん』呼ばわりするから、ちょっと苛めてみたくなったの・・」
「たしか、そう言う表現は親しい年下の家族、それも十才位までの主に女性に対する
表現だったと思うけど・・・」
「私の日本語の知識が間違ってたかしら？・・・日本語って難しいわね・・・」
「じゃあ、あらためてお名前は・・・」
「ミサトよ、葛城ミサト・・・・」
不機嫌そうな声・・・
（せっかく、サードチルドレンと仲良くなろうと思ってたのに・・・）
（日向君に変わってもらった、かいがないじゃないの・・・）
（こんな女しか、居ないなんて・・・）
マリアが話しかける・・・・
「じゃあ、行きましょう・・・なにか、妙に不細工なのが来たみたいだし・・・・」
「肩が凝るから安全運転でお願いね・・・」
「だから、私は運転手じゃないわよ・・・」
「大体、肩が凝るって・・・何よ・・・・」
ミサトは脇に座る女性の胸を見て絶句する・・・・
（何これ・・・大きい・・・って、一体、何カップあるのよ・・・）
眼に写ったのは、自分の胸を一回り大きくした様な乳房・・・・
しかし、弾力のある張りのある双丘・・・
「あら、何を見てるの・・・もしかしてそういう趣味があるのかしら？」
「そうそう、シンとはジオフロントの入り口で待ち合わせよ・・・宜しくね」
ニッコリと笑いかけるマリア・・・
「でも、良いの？・・・変なのが来るわよ・・・」
マリアの指が、御殿場の方を示す・・・
慌てて目を離しマリアの指先に示された方向を見て絶句するミサト・・・
「あっちゃ〜・・・もう来たの・・・・」
ギアを切り替え、発進する青い車・・・アルピーヌ・ルノーＡ３１０・ミサトカスタム
急加速を掛けて爆走する・・・走る迷惑・・・・
山の向こうから、あらわれる巨人・・・
UN軍の攻撃機や戦略自衛隊の戦闘車両群が攻撃を掛けるが、
その歩みを留めることすら出来ない・・・
マリアは何が可笑しいのか、コロコロ笑う・・・
「何あれ・・・さいっていのセンスよね・・・」
「手長猿にタイツを履かせて、骸骨を被せたみたいよね・・・」
「三十年前の特撮やジャパニメーションじゃあ、あるまいし・・・・」
「そう言えば、日本なんだから本場よねぇ・・・」
破片や墜落してくる戦闘機を避けながら爆走する車・・・
（この女・・・何で平気なのよ・・・さっきから笑い転げているし・・・）
マリアは、まだ笑っている・・・しかし、注意してみれば眼が笑っていない・・・
しかし、ミサトは運転に夢中で気が付かない・・・・
（あれが、例の使徒とやらね・・・良いタイミングというべきかしら・・・）
（それとファイルに書き加える必要があるわね・・・・）
（運転技術 Ｂ＋・・・というところ・・・）
（地雷原や不整地をジープやバギーで走らせて見たいわねぇ・・・）
「あら、何かまずそうよ・・・・」
マリアの声に、バックミラーを確認したミサトが一瞬絶句する・・・
ミラーに映るのは、急速に巨人から離脱する航空機群・・・
「・・・・まさか・・・Ｎ２地雷・・・・」
後方から、閃光・・・・地上に落ちた太陽・・・
それを追いかけるように、湧き上がる爆音と衝撃波・・・・
「いけない、伏せて！！！」
ミサトの絶叫は、追いついた爆音にかき消される・・・・
木の葉の様に、巻き上げられ吹き飛ばされる青い車・・・
同日、１４：２５・第三新東京市
国連軍の攻撃機が、ミサイルを撃ち放す・・・
マーベリック空対地ミサイル改・・・
炸薬を大幅に強化されたそれは、地を這うものに確実な死を与える・・・
成り響く・・・爆音・・・・
されど、市街地に侵入した巨人の歩みを留めることすら出来ない。
流れ弾や墜落した飛行機によって、炎を吹き上げる街に一人立ち、戦闘を見つめる少年・・・
健康的な白いワイシャツに黒いスラックス・・・
しかしその手には、軍用と思われる無骨なスコープ・・・
「酷いな・・・一体何と戦っているんだ？」
「Ｎ２爆雷すら通用しない相手・・・やはり、来たという訳か・・・」
（稼げた時間は、僅かに一時間程度か・・・）
（裏死海文書の解読に手間取り過ぎたか・・・準備期間が不足していたな・・・）
（まあ良い・・・Ｍ．Systemが本格的に稼働し始めた以上、期間の短縮は可能だ・・・）
（いずれにしろ、始まったと言う訳だ・・・・）
（パンドラの箱は開かれた・・・最後の魔物を手にするのはゼーレか・・・我々か・・・）
一瞬、爆炎の向こうに、少女の姿が見える・・・
青い制服に身を包んだ、蒼い髪の少女・・・・振り向いたその顔にはルビーの様な赤い瞳。
少年が、叫ぶ・・・・
「君！！！」
一瞬流れた煙の向こうには、もはや少女の姿は見えない・・・
「ちっ・・・（避難し損ねたのか？）」
舌打ちを鳴らし、少女の見えた方へ駆け寄る少年・・・
駆け寄った場所にはもう少女の姿は見えない・・・
（今の少女は・・・どこかで・・・・）
脳裏に浮かぶのは、空一面の蒼い月・・・少女の言葉・・・・
（碇君は死なない・・・私が守るから・・・・）
（さよなら・・・・）
（あやなみ・・・レイ・・・）
（ファイルにあった・・・・ファーストチルドレン・・・・）
（・・・・違う・・・・あれは・・・・いつ・・・・）
少年の耳に、か細い声が聞こえる・・・
「だれか・・・痛い・・・」
一瞬で消え去るイメージ・・・手の届きそうなほど近くにあったはずの記憶・・・・
声のする方へ走る少年・・・
「何処だ・・・返事をしてくれ・・・」
か細く聞こえる声・・・
「・・・・助けて・・・痛い・・・・」
駆け寄る少年・・・
見渡した少年の瞳に写るのは、崩れた瓦礫に足を挟まれた、お下げ髪の十才位の少女・・
（・・・・違う・・・）
少年は、話しかける・・・
「大丈夫か・・・少し我慢しててくれ・・・」
少女の挟まれた瓦礫を持ち上げる少年・・・
はち切れそうに盛り上がる少年の両肩・・・・
１ｔ以上もありそうな瓦礫は少年の手によって、少しずつ持ち上がってゆく・・・
救い出される少女・・・助けられた事が信じられない様に少年を見上げる・・・・
「ありがとう・・・・・痛い・・・・」
埃と擦り傷に汚れた顔・・・
少女の側にかがみ込んで様子を見る少年・・・・
「痛いけど、少し我慢してね・・・・」
「あっ・・・痛・・・・」
（脊椎に損傷無し・・・頭部、打撲及び内出血無し、意識もハッキリしている・・・）
（胸骨、肋骨、鎖骨・・・内臓にも損傷無し・・・）
（四肢は・・・右足の単純骨折か・・・膝蓋骨には異常はない・・・全治二週間位かな・・・）
少年はワイシャツを脱ぎ即席の包帯を作る、少女の足に添え木を添えて素早く手当をする。
少年は少女に微笑みかける・・・・
「怖かったかい・・・もう大丈夫だよ・・・」
「僕は、シン、シン・ロドリゲスって言うんだ・・・君は・・・・」
少年を見上げて少し赤くなる少女・・・・
「あの・・・わたし、ハルカ・・鈴原ハルカ・・・」
「よろしく、ハルカ・・・」
シンはハルカを抱き上げ背負い歩き出す・・・
ドーン・・・・
爆音とともに、彼らの前方のビルの陰から紫の巨人が立ち上がる・・・・
巨人の足が、二人が今まで居たビルを踏みつぶす・・・・
少年と少女めがけて、砕け散った鉄筋コンクリートの破片が降り注ぐ・・・
シンは、瓦礫の中を走り抜ける・・・
一抱えもある破片が少年に向かって落ちてくる・・・
（・・・今避ければ、ハルカに当たる・・・・）
「ひゅううう・・・」
シンは、大きく息を吸い込む・・・・
跳ね上がる鼓動・・・肺から吸収された酸素が血液に注ぎ込まれる・・・
血液中のヘモグロビンから酸素を受け取った細胞が急速に化学反応を引き起こす・・・
酸化反応・・・人体など一瞬に焼く尽くす・・・急激な燃焼・・・・
体内に蓄えられた脂肪が、急速にエネルギーに変換され神経節を通って体内を駆けめぐる・・
増大する、体内電流・・・蒼白い稲妻・・・不可視のエネルギー・・・
体の中心点にある、臍下丹田と呼ばれるダイナモで増幅されたエネルギーは、
脊椎を駆け上がり体内を循環する・・・
破片が激突する瞬間・・・僅かに振られる少年の頭部・・・
少年の頭を粉々に砕く力は、激突の瞬間にベクトルを変換され方向を変える・・・・
凶暴な運動エネルギーは、足元の瓦礫に激突しまき散らされる・・・
（頭蓋骨・・・正常、三半規管・・・正常、視神経・・・正常、頭部に裂傷発生・・・）
（出血・・・影響軽微・・・額を切っていたら、視界に影響が出る所だったな・・・）
（未熟・・・・）
僅かに、掠めた破片により溢れ出す、赤い液体・・・朱に染まる、左顔・・・・
シンは、飛び散る破片をかわしつつ、素早く物陰に隠れる・・・瞳に写る紫の巨人・・・
（あれが・・・ＥＶＡ・・・母さんを飲み込んだ機体・・・・）
（人類の切り札・・・使徒と呼ばれるモノのコピー・・・そして、補完計画の要・・・）
背中の少女が、震える声で尋ねる・・・
「あ、あれが街を壊したの？」
シンは優しく答える・・・
「違うよ・・・たぶん・・・あれは味方だよ・・・」
「でも、あのまま、あそこにいたら危なかったな・・・・」
（あれを動かせるのは・・さっきのがレイ・綾波ならば、彼女は無事だと言うことか？）
（しかし、この短時間で乗り込める訳がない・・・では、さっきのは？）
おずおずと見上げるハルカ・・・眼に映る真っ赤に染まった少年の横顔・・・
息を呑む少女・・・
「ひっ・・・」
震えるハルカの声
「ご、ごめんなさい・・・・私が・・・・」
シンは答える・・・・
「気にしないで、小さな子供を守るのは年上の人間の義務だから・・・」
ハルカは、少し拗ねた様に囁く・・・
「ハルカ、子供じゃないもん・・・りっぱな、レディだもん・・・」
シンは、困ったかの様に返事を返す・・・薄い、微笑み・・・・
「子供じゃないって言っているうちは子供だよ・・・後、せめて６年は経たないとね。」
脳裏に浮かぶのは・・・薄く金色を帯びた茶色の髪と蒼い瞳の少女・・・
振り上げられる腕、高く鳴り響く頬・・・
（アスカ・・・どうしているかな・・・・）
（そういえば、いつも会う度に叩かれるんだよな・・・・）
（・・・でも、子猫にじゃれつかれているみたいで可愛い・・・）
少し赤みを帯びた少年の顔・・・・
小さく聞こえるハルカの声・・・押し殺した泣き声・・・
「ぐす・・・・ごめんなさい、私がいけなかったから・・・・」
シンは答える・・・
「悪いと思うのならば、ハルカが大きくなったら誰か困っている人を助けてあげれば良いよ・・・」
「・・・でも、その為にはもっと勉強しないとね・・・・」
引き締められる、表情・・・硬く響く低い声・・・
「でもね。子供を守るのが大人の義務ならば、大人の邪魔に為らないのが子供の義務だよ・・」
「僕が通りかかったから良かったけれどね・・・」
「もう少し遅ければ僕もハルカも死んでいたかもしれない・・・」
震える声・・・
「・・・ご、ごめんなさい・・・・」
シンは答える・・・
「違うよ、ハルカ・・・僕は謝って欲しい訳じゃない・・・良く考えて欲しいんだ・・・」
途絶える会話・・・走り出す少年・・・
しばらく後、背中から聞こえる細い声・・・
「シン、お兄ちゃん・・・よく判からないけど・・・私、頑張るから・・・」
シンは答える・・・・口元に微かな笑みを浮かべて・・・
「ハルカは良い子だね、ちょっと走るからちゃんとしがみついててね・・・」
「・・・そうだ、元気の出るおまじないを教えてあげる・・・」
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ・・って心の中で三回唱えるんだよ」
「それとどんな時でも、諦めないこと・・・・」
「それでもダメな時は、美味しい食事をお腹一杯食べる事・・・」
「そうすれば、力が湧いてくるよ・・・」
ハルカは答える・・・シンの背中にしっかりとしがみついて・・・
「逃げちゃダメだ・・・諦めない・・・美味しい物を食べる・・・うん・・・やってみる・・・」
シンは囁きを返す・・・
「頑張って・・・・」
駆け出す、少年・・・・
（さて、間に合うかな・・予定通りならば、マリアと葛城大尉は此方に向かっている筈だ・・・）
（・・・幾ら救ったとて、重ねた罪が贖える訳じゃない・・・）
（僕の手はもう血に染まっている・・・魂にまでも染みついた血臭・・・）
（偽善者が・・・・一番逃げ出したいのは、僕自身じゃないか・・・・）
死んだ魚のごとき少年の眼・・・・絶望に染まった横顔・・・
どこからか、風の音
カサカサカサ・・・・・
〜 幕 間 〜
２０１４年０６月０３日２２：３５ アメリカ・ある屋敷にて
一人の初老の男が書斎で机の前に座り、電話を掛けている・・・
本棚には様々な書類・・・主に航空機産業関連・・・
「はい・・・Ｅ・キャリアーの生産は予定通りです。」
「では、次の報告は来週に・・」
カチャン・・・切られる電話・・・・
「やれやれ、老人方も無茶を言う・・・」
ふっ・・と、いきなり消える電灯・・・
「なんだ、停電か？」
男の首筋に微かな気配・・・まるで幾千の時を経ても融けない、永久氷土の様な冷気・・
ゴト・・・闇の中、何かが倒れたような音・・・
再び、灯される文明の光・・・・
其処にあるのは、眠るかの様に机に俯せになった男・・・
少しずつ男から拡がるのは、真っ赤な粘りのある液体・・・
何処からともなく、風の音が響く・・・
カサカサカサ・・・・・
２０１４年０６月０４日 某所
闇の中、浮かび上がる五枚のモノリス・・・・
モノリスの表面に浮かび上がる光・・・
赤く縁取られたそれは、『ＳＯＵＮＤ ＯＮＬＹ』の文字・・・
薄暗い部屋に響く声・・・
「マグダネル・ダグラス社CEOアルバート・ブロザックが死んだ・・・」
「また、アレですか・・・」
「そう、インヴィシブル・レザー・・・見えない刃・・・・」
「この七年で、アレが関わったと思われるのは６７件・・・」
「全て、我々の協力者だ・・・」
「所詮は取り替えの効く駒に過ぎない・・・」
「一部で動揺が見られます」
「放置しておくのは問題ですな・・・」
「しかし、一切の足跡が不明だ・・・」
「年齢、性別、人種・・・」
「現場の土を根こそぎ浚っても、指紋一つ、髪の毛一本すら見つからない・・・」
「責任者を変更すべきだな・・・・」
「・・・それを何度繰り返したんだね」
「マグダネル・ダグラス社の後任人事は？」
「次期CEOはおそらく、ハワード・ワイズマン・・生産設備の効率化で純益を１７％引き上げた男」
「妻と長男はセカンドインパクト後の混乱で死亡」
「娘が一人・・・夫はＵＮ海軍に所属・・・キーツ・ホッカム・・階級は中佐・・・」
「此方の駒になりますかな？」
「方法は幾らでもある・・・」
再び、闇に帰る・・冷たく凍り付いた部屋・・・
※注 CEO：Chief executive officer（最高経営責任者）
２０１４年０６月０８日 アメリカ・マグダネルダグラス社ミネソタ工場
一人の男が、生産ラインを見つめている・・・
がっしりとした、頑健な身体・・・強い意志を秘めた眼・・・
「なんだね、これは・・・工場長、説明を聞かせて貰おうか・・・」
脇に立つ作業服を着た中年の男が困惑した様に答える・・・
「何と聞かれても・・・ご存じないのですか？」
「アルバート・ブロザック氏よりの直接指示で、何としても納期までに仕上げろと・・」
「前CEOのブロザック氏が・・・」
「しかし、追加発注の見込めない超巨大輸送機などを何に使う？」
「これに消費する費用で、通常の大型輸送機を何機作れると思っているのかね？」
工場長と呼ばれた男は取り出したタオルで汗を拭きながら返事をする。
「そう仰られても、本社からの直接指示ですので・・・何でも、更に上からの指示らしいと・・・」
不機嫌そうに男は答える・・・
「更に上だと、大統領からでも命令があったというのかね？」
（今回はここまでだな・・・無理に中止させようとすれば、排除されるだけだ・・・）
（建造中に工作すべきだな・・エンジンやコンピュータに細工することは危険・・・・）
（だが、配管の断熱材あたりにコンポジットでも混入すれば・・・）
（アンヌ・・・ロバート・・・仇は討つ・・・・・）
（それにメアリーと生まれてくる子供の未来は守ってみせる・・・）
男の琥珀の瞳の奥に見えるのは鉄の意志・・・
工場内にアナウンスが響く・・・
『Ｍｒ．ワイズマン、お電話が入っております・・・』
足音を響かせ立ち去る男・・・
第二話 Ver.1.05
今回はえらく難産でした・・・・本編が全然進みません・・・・
気・・・とかの設定は、実際どの様な物かさっぱりですので適当です。
体の内部で気が力として働くと考えると、こういう表現になりました。
実際に外部に対して影響を与える力であるなら、それを使える人はすでに神です・・・
そう言う意味では、シンジ君は自覚のない神です・・・・
つい、出る予定の無かったアスカ様も回想で少し出してしまいました・・・・
ＭＳ・カーネル叔父さんをしょっちゅう暴走させるマナ様は、設定が固まっていないので、
たぶん出てこないでしょう。
しかし、段々ほえほえして行く様な気がするんですが・・・
私の拙い話を読んで下さる方がもしいれば、続く・・・かも！ by Yanagan
次回予告・・・
父親を見あげ、微笑む少年・・・・その、微笑みはまるで・・・・
ゲンドウ「シンジ・・・大きくなったな・・・」
「まるでユイの若い頃をみているかの様だ・・・・」
シンジ 「父さん、ぼくは母さんに似たの？」
ゲンドウ「ああ、お前はユイにそっくりだ・・・」
「あの夕日を見てごらん、ほらユイが見守ってくれているだろう・・・」
シンジ 「父さん、涙でにじんで見えないよ・・・・」
ゲンドウ「大丈夫だ、心で感じれば・・・」
シンジ 「父さん・・・・・」
抱き合い、涙にむせぶ二人・・・
冬月「碇、お前に似て無くて良かったな・・・・・」
Ｃ．Ｅ．中佐「見損なったぞゲンドウ、所詮、お前も只の人の親という訳だ・・・」
「失望させてくれる・・・貴様は私の敵に相応しくない・・・」
どこからともなく取り出された、黒光りするステアー・ＡＵＧ・・・
鳴り響く銃声・・・
割れた赤いサングラス、横たわる男・・いきなり表れる少女・・当惑する冬月・・・
蒼銀の髪の少女「爺さんは用済み・・・・くすくす・・・・」
冬月「シンジ君は、一体どこに行ったんだ？？」
射殺されたゲンドウ、妄想する委員会・・ネルフに明日はあるのか？
いきなり最終話（？）・・・『ネルフ壊滅の日』
蒼銀の髪の少女「今回は赤毛猿はいなかったはず・・・・作者も用済み・・・・」
少女の手に在るのは、黒光りする無骨な拳銃・・・・シグ・ザウエル・・・
作者Ｙ「ま、待ってくれ・・・・・次からは、ヒロイン役を・・・・」
蒼銀の髪の少女「・・・次から私がヒロイン・・・ヒロイン・・・お約束・・・碇君（ぽっ）」
ミサト「次回もサービス、サービス・・・」
次回、第三話「肉親」
父親・・しかし、それは肉親ではあっても家族足り得ないものだった・・・
シンちゃん「シンジ君強いにょ。頭突きでコンクリートの塊を ごん だにょ。」
YOKO 「既に人の領域を越えているか・・・？」
シンちゃん「ボクも負けないにょ。」
YOKO 「どーせ、目からビームしかないだろうに。」
シンちゃん「あー、人が気にしていることをぉ。YOKOの癖に生意気だにょ。
目からビーム！」
ジュッ・・・プスプス
YOKO 「ひ、酷い・・・」
シンちゃん「これで悪は滅びたにょ。えっとドコまで話したにょ？・・・
ピンチを救ってくれて、大人な言葉でハルカちゃんの心もGET！
まさに人間磁石♪ 次はレイちゃんの心をGET！？
修羅場間違い無し？ シンジ君、人の道を踏み外しちゃ駄目だにょ。」