裏第０６話「決戦前夜」

ＮＥＲＶ本部
技術部 第九課
別称「特殊技術創作課」
自称「Ｑ」
通称「ヲタク課」

「失礼します！戦略自衛隊第四次陽電子砲開発チーム所属西山技術准士官です！
ＮＥＲＶ技術部第三課に専門技術者として一時配属されました！」

きっちり発音をして、軍隊士官訓練経験者独特のリズムを持つ口調。それで漢字を連発されたら。。

「ん？」
「へ？」
「お？」
「あぅ？」
「ぬお？」

まるで漫才の様だ。くつろいでいる技術部第九課の扉が開かれ、
若い技官が敬礼している。それに対し、

Ｍ１６、ＭＰ５ 、ＡＷＧの分解整備をしている。
熱心に「デジタルふぉと」なる雑誌を読んでいる。
おにぎりをほお張っている。
領収書の束を手にそろばんをはじいている。
驚きコーヒーを落としそうになっている。

なにかがズレている。
どう形容していいか解らない気まずさが流れ、
空調の音が間を埋める。がそれも長く持たない。

「西山技術准士官。悪いがここは三課じゃない。
ウチは特務機関ＮＥＲＶ技術部特殊創作第九課だ。」
課長も漢字の羅列に張り合ったのだろうか、
滅多に使わない名前を記憶の奥から引っ張りだした。
あれ？そんな名称もあったっけ？と言う表情丸出しのカズヤはご愛敬。

「はっ、失礼しました！」

おおっ、頭を力一杯下げているよ。軍人の模範の様な
この行動をしげしげを観察する第九課面々。
こんな行動が最も似合わない人たちだからこそ興味を覚えるのだろうか。

「それになんだ、楽にしていいぞ？ユウスケ、
第四課までの地図書いてくれないか？大方迷いでもしたんだろう。」

「それは部外者にＮＥＲＶ本部の内部構造を知られる危険性があります。」
一時そろばんをはじく手を止め、ユウスケは眼鏡を押し上げる。

「西山技術准士官には悪いが、そんなタマじゃないさ。な？」

「自分は上官にＮＥＲＶとの関係を悪化させる行為を避けるよう命令されてます。」

「それだったら、その態度やめてくれ。ＮＥＲＶは軍隊じゃない。
そして技術部はそのＮＥＲＶでも規律の緩い所だ。
こっちに不快感を与えないように気を付けているようだが
逆に疲れちまう、お前と俺らもな。お前の携わる作業は今度の作戦の要だ。
余計な所で神経を使わないで仕事に専念すればいい。」

「そ、そうですか。。失礼しました。」
「ああ、こっちも勝手な言い分ですまない。ほら、地図だ。
本部内は複雑で迷って当然だから気にするな。
極秘だがな、ウチの作戦部長殿も未だに迷う。」

「へ？」

「笑えるぞ？独身美人で腕が立ち、性格も良く、子供二人の世話する器量よし。
正に作戦部の長として ふさわしい女性が途方も無く迷って、放送システムで
迷子の呼び出しのお世話になる。」

西山と名乗った青年は一瞬呆けた口を閉め、表情を引き締めた。
かすかに耳が赤く染まっている。恥ずかしいのかも知れない。

「自分をからかってませんか？」

「あのさ、わざわざウチの作戦のために
無償技術出向してきた戦略自衛隊の技官をからかうかぁ？」

あんただったらやりかねない。その思いを胸の内に潜める第九課。

「おっと、一言注意をする。」

「何でしょうか？」

さらに表情を引き締め、一言でも聞き漏らさぬよう集中していくのが解る。
真面目な好青年は一回りほど年上な中年間近なこの団体にとって新鮮な反応を示す。
単に大人気無い最年少のカズヤは論外。

「作戦部長と技術部長。両方独身だが惚れるなよ？」

「はぁ？」
さすがにこれは予想外らしい。
引き締まっていた表情が一気に揺るまる。

「アタックするならばＮＥＲＶ職員多数を打ち破って行く
心構えが絶対必要だ。もう半端で無い競争だからな、これ以上
参戦したらライバルを蹴落とすだけでアタックする前に全労力を使ってしまう。」

「課長、一言足していいですか？」ケンが手を挙げ、聞く。

「ん。いいぞ。」

「伊吹マヤというとっても良い子なんだけど、
その子もむやみに近寄るなよ。」
うんうんと周りで数人が肯く。
さすがマヤちゃん。平均水準の高いＮＥＲＶ本部内でも人気は高い。

「てな訳だ。戦自と違ってココは美人が一杯なんだ。独身者も多い。
彼女達に相手を選ぶ権利はあるがな、結果的に俺達が
悔し泣きをするような行動はやめとけ。 以上、行ってよしっ！」

「西山技官、あまり真剣に取らない方が良いよ。第九課は尋常じゃないから。」
ニコニコしながらユウスケは忠告する。

「は。。はい！ありがとうございました。失礼させていただきます！」
敬礼をビシっと決めて退室した西山准士官を見送った第九課は
笑みを浮かべてそれぞれの仕事に戻る。

部屋を出た西山准士官はちょっとカルチャーショックを受けたのか
呆然と地図に記された道を歩く。

「技術創作ってなにをするんだろう？」
・・・ もっともな疑問である。

ＮＥＲＶはその立場から膨大なデータの賢覧許可を保持している。
それは軍事関係にとどまらず、多用な分野に及ぶ。
そして今、前世紀に製造されたアメリカ合衆国ローレンス・リバモア
核融合実験の超高出力レーザー電力部の設計図を回覧している。
一億八千万キロワットの電力を蓄積、放出する電力系統はＮＥＲＶに無い。
だが、もうすでに前例があれば文字通り「こっちの物」である。
確立された設計はその性能も疑いの余地が無いので気も楽だ。

必死にデータを読む西山准士官。片手に計算機を持ち、
別ウインドウで自走式陽電子砲規格書と比較していく。

隣の上官にポツリともらす。

「ＮＥＲＶを手伝うなんて。。」

「その気持ちは解る。だが命令だ、勝算が合っての事だろう。
ＮＥＲＶは無謀のプロだからな。実績もあるさ。」

「だけど、子供に兵器を渡すくらいなら。。」

「西山、時と場所を忘れるな。」

西山は半分誤魔化す様に結果報告をする。

「このヒューズ群が絶対焼き切れます。しかし、その前に三重連装の電圧可変機を装着、
常温超伝導線を使用すれば確実にこの電力は伝達できますね。」

「そうか。ＮＥＲＶさんたちに伝えるか。」

「でもこの電力は円周型加速器が堪えても砲身を破壊しますよ？
真空チャンバー内を電磁保存したって。。」

「ＮＥＲＶさんもなんとかするらしい。現場に行くぞ。」

上官が電算室から出て行き、現場に向かう。西山はふぅ、と一息付いた。
女性オペレータに頼んで作成してもらったシミュレーション。ＭＡＧＩの常識外の
計算速度でほとんどリアルタイムでそのシミュレーションが走る。
彼に情報の回覧は限られているが、 他職員は必要に応じて法律、
条例を無視して「外」の情報を引用できる。そしてここの設備。唖然とするしか無い。

扉を開いて工場にでた戦自士官二人が呆然とした。彼らの作った自走陽電子砲は解体され、
無残な姿を晒している。交換銃身が取り付けられている所だ。

「あれって・・・」

「電子加速器の外周トラックを逆に付けているな・・・」

物理学者が物質の本性を知るために製作した粒子加速器。
百数十キロメートルの距離で電子をアインシュタインの許すまで加速し、初めて
陽電子を生み出した設備。砲身までを加速機の一部として使用するのだ。
それ事体得る威力の増加は少ないのだがその改造は円周型加速器の
大幅な出力増加と命中精度向上を可能とした。
電磁処理のなされた戦自の砲身でも融解してしまう出力を損なわなず利用する有効な手だ。

ＮＥＲＶの技術部第三課長が走りよって、声をかける。
「驚くのはまだ速いですよ？あ、電力系統の負荷計算終わりました？」

「あ、ああ。現在の設計ではヒューズが焼き切れるだけで
その連続運用は可能だが、改善の余地はある。西山技官、報告を。」

「はい。現在の改善方法は三重連装の電圧可変機を装着、常温超伝導線
の使用でその破損を回避出来ます。」

ＮＥＲＶの技術者は顔をしかめ、少し考える。

「すまねえが、そのヒューズを飛ばす以外の被害は無いんだな？」

「はいっ、その通りです！」西山は力いっぱい答える。

「その数もあり、交換にも時間が掛かるのでそれが一番の方法かと・・・」
西山の上官が意見を述べると三課課長はニヤリと笑みをもらした。

「西山技官だったね？悪いが第九課に行ってくれないか。すぐ彼らに仕事が回る。」

三課課長は西山の上官を引っ張って行き、改造案を練っている。
西山はまだ持っていた地図を引っ張り出して廊下を走っていった。


プシッ。圧縮空気の音と共に扉が開く。先程のちょっとだらけた室内を
期待してた西山准士官は再度驚かされた。

「よし！きたか！西山、こっちへ来い！」

第九課のメンバーが活気あふれ、何かを設計している。
大声で呼ばれ、その端末を覗き込む。そこにはＡＷＧの装填チャンバーの画像があった。

「あの唐変木な第三課課長も面白い事を考えつくぜ。形に出来るのは俺達だけだがな。」

もう一度確認する。確かにライフルの装填チャンバーだけど。。図尺が違う？？
配線図を見ると焼き切れるヒューズが一個所の大型のヒューズに変わっている。
そしてその配線図横に製作発注内容が書いてある。

「このヒューズを三秒以下で交換方法製作」

・・・なんだこりゃ。命令でもなんでも無い。無茶苦茶過ぎる
内容の発注だが、この第九課は平然としている。

Ａｒｃｔｉｃ Ｗａｒｆａｒｅ Ｍａｇｎｕｍ 。
Ｈ＆Ｋ社のセカンドインパクト前に生産をした最強レベルの狙撃ライフルである。
その貫通力は対人装備にしてはいささか度を超していたが、その精度もまた高かった。
２０１５年現在では恒久展開ＡＴフィールド実験の折りにも使用された
アンチマテリアル・ライフルに凌駕されているが、通称ＡＷＧの特筆すべき点はその装填方法。
マガジンに五連装の弾丸を上のアクションを引いて次弾装填をするのだ。

西山は意味が解らず、少し唖然とする。この情報どう解釈するのかが解らず、たちすくす。

「おい、ボケボケするな。専門家なんだからそこの電力計算合っているかどうか確認してくれ。」

「あっ、はい！ええっと、端末は。。」

「これを使ってください。」

「どうもありがとうございます」人当たりの良いユウスケに笑いかけられ、
すこし安心する。その配慮はありがたく、異様な雰囲気の第九課の中の拠り所だった。

・・・一時間後

「西山ぁ！出来た？」

「できました！誤差０．０３以内です。」

「フラッシュヒューズの半透明硬化ベークライト付け完了！００４５で完全硬化します」

「アクション、装填インターロックが第八工場から出ました！今、ライフルに組み込みます！」

「いよっし！俺達の仕事は終わった。ご苦労。」

一時間半でこの速度は。。その速度は尋常でないにしろ、
その製作内容を未だに理解出来ない西山技官が課長に問い掛ける。

「あの、自分は電力計算をしてたんで実際に何を製作したのが不思議なんですが。。」

「ああ、それはなー、ヒューズを弾丸の様に装填、射出するのさ。」

そう、ヒューズをベークライトに包み、切れる際の弾け飛ぶ金属片を内容する。
そのヒューズは簡単な動作で速やかに排出し、確実性の高い機構。
部品の大半は流用されている。言われてみればなるほど、合理的だ。
でもそれはその動作をこなす事の出来るのはエヴァだけだ。
人間と同じ形をしているから人間の蓄積した技術をそっくり利用できるのは大きな利点だ。

「発案者は。。」


「ああっ、そこのユウスケだ。」


「えっ？嘘でしょ。」冗談と思った西山技官は笑らった。
「また僕をからかおうと。。」


「いや、本当ですよ。」

「いっ？」その笑顔は凍り付く。背後からユウスケから声をかけられたのだ。

「粗茶ですがどうぞ。」

「あっ、どうも。。でもどうしてそんな発想を？」

「格好良いじゃないですか？スナイパーって。形はともかく
劇鉄を引く動作が無いと物足りない。ＮＥＲＶとして他に出来ない事をやる、王道ですよ。
おおっ、これは。ういろうをださなきゃ」

「な？ココだけの話だが、あいつが一番アブナイぞ、この中では。」

「。。。」

新事実に呆然とする。それもまた良いのかもしれない。
流課長の言った通りに自分の仕事は終わった。
やる事が無い。手に湯飲みを持って、視線を宙に漂わせる。。
と、机の上の写真立てをみつけた。
大きな木の下、黒髪の美女が二人の子供を抱きしめている。
金髪の一人は日よけの大きな帽子をかぶり、青い髪の女の子は日陰の中にいた。
アルビノなのだろうか、子供の目が二人とも赤い。
そして満身の笑顔を浮かべた女性が輝かしい。

「いいだろ、それ。」

「はい。お子さんですか？」

苦笑を浮かべるヨウイチは写真立ての角度を少し調節させる。
「いや、残念ながら違う。でもここにいる全員はこの二人の為に仕事している。
いわば、みんなの子供だ。」

「はぁ。」生返事を返したはいいが、事情はつかめなかった。
もしかしたら第三東京の戦争孤児かもしれない。
技術科で死亡した職員の遺族なのだろうか。
それともＮＥＲＶに入院している子供たち？
第三東京は特殊医療の最先端だと聞く。
アルビノに関する難病を抱えているのかもしれない。

結論は出ないが、聞くのは気が引けた。
なんにしろ、 気持ちは暖かい。それだけは解る。

ずっ、っとお茶をすする。美味しかった。

本編共々読んでいただいてありがとうございます。
ずいぶんと難産だった裏第六話でした。題名は安直に「決戦、第三東京市」
に似た物です。ひねりがまったく無いですね（笑）

えっと、お気楽極楽物なんでこれと言った後書きに残す言葉は無いですねぇ。
しょうがないね。

じゃ、また次の裏話まで失礼させていただきます。

「みんなの子供だ」・・・いい言葉ですね。
そう言ってもらえる子はたぶん、とっても幸せだと思います。

それにしても、迷子放送されるネルフ作戦部長♪
やっぱりインパクトがあるようですね。（笑）

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